平和ボケ。

クレージージャーニーという番組がとても好きだ。自分の知らない世界を垣間見ることができ、価値観がひっくり返ることがあるからだ。旅をしているときの感覚と似ている。好奇心と不安感が入り交じる。鼓動が少し早くなる。手には汗をかき、眉間にシワが寄る。観たいような観たくないような、いや、本当に観ていいのだろうかと言ったほうが近い。そんな思いを抱きながら、ついテレビにかじりついてしまう。やらなければいけない仕事のことも忘れて。

今日の放送回には、丸山ゴンザレスさんが出演されていた。パリの地下世界やスラム街、メキシコの麻薬組織のボスが眠る墓地を訪れたときの映像が流れていた。とてもじゃないけれど、信じられない映像ばかりだった。本当にあることなのだろう。でも、ドラマや映画の世界のような。これが平和ボケというやつなのかもしれない。

25歳ぐらいのときにバックパッカーとして1ヶ月間ほど東南アジアを旅していたことがある。旅に出る前にセブ島で2ヶ月ほど語学留学をしていて、そこで出会った友だち3人と共に旅に出た。ほとんどの時間を4人で一緒に過ごしていたのだが、たまに別行動をすることがあった。ぼくはガイドブックを見ずに、フラフラと町中を歩くことが好きだったので、一日中町を歩いて回っていた。さまざまな景色やお店を見ることができて、とても楽しかったのを覚えている。

たしかマレーシアだったと思う。道を尋ねた中年の男性に「いろいろな場所を案内してやるよ」と言われたことがあった。4人であれこれと相談する。お金を騙し取られるんじゃないか、危ないところに連れて行かれるんじゃないか、でもせっかくだしついて行ってみるか。結局、その方はとてもいい人だった。行きつけのお店に連れて行ってくれてご飯を御馳走してくれたり、お酒を一緒に飲んでマレーシアのことを色々と教えてくれたり。どうしてそんなに優しくしてくれたのかと別れ際に聞いてみると「おれはツアーガイドとして働いているんだ。休みの日にもたまにこうして無償で旅人を色々なところに連れて行っている」と言っていた。ぼくらはマレーシアにパパができたなんて、喜んでいた。

クレージージャーニーを見ていると、その土地にはその土地ならではのルールがあるのだということを改めて認識させられる。警察に捕まるぐらいならまだいいかもしれないと思えるほど、破ってはいけない禁忌のようなものがある。浅い考えで、町中をフラフラと歩いたり、知らない人について行ったり。たまたま運が良かっただけで、いまぼくは生きているのかもしれない、なんて思う。


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