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【短編】折り返し地点


男は仕事の仲間と飲んだ帰り道、
ふと視界に入った路上占い師に「お兄さん。占っていきません?」と声を掛けられて衝動的に椅子に座った。

酔っていたこともあるが、ここのところ人生、キャリアに対してなんとなくモヤモヤしたものを抱えていたのも事実だった。

40代後半ぐらいだろうか。髪が短く不思議な雰囲気のある女性占い師は、男が立ち寄るのを予め知っていたかのように自然な流れで案内を始める。

「メニューは6つ。全体運。仕事運。恋愛運。健康運。金運。それから、」
占い師が見せたメニューの一番下には、「折り返し地点」とあった。

「えっと、この折り返し地点ってのは、何ですか?」
「はい、折り返し地点ね。あなたの人生の折り返し地点がいつ、何歳なのかを見ます。」
「それはなかなか珍しい占いだね。面白そうだな」

「よく勘違いされる方がいるんですが、余命、寿命の折り返し地点ではなく、人生の充実度の折り返しを占います。」
「充実度、ですか」
「はい。いかがなさいますか?」

興味が湧いた男は、「折り返し地点」のメニューを選び、代金を支払った。

彼女の占いは、いわゆる命術、卜術、相術をバランスよく駆使したもののようで、さほど斬新さは感じなかった。
「お客様の折り返し地点ですが・・・・」

軽い気持ちで占ってもらったが、男は何だか余命宣告でもされるかのような緊張感でカラダが硬直した。
「69歳です」

これをどう捉えるのか、一瞬分析と理解が遅れた。
自分の寿命がそもそも何歳なのか分からないが、今俺は33歳だ。仮に80歳まで生きるとして、充実度の折り返し地点が69歳という事は、パッとしない現役時代を送り、引退後に充実度が増していくといった感じなのか。長生きしなくては。
劇的な結果を期待していた訳では無いが、ある意味無難な占い結果に、少し物足りなさを感じていると、
「生涯の充実度の総量は人それぞれ決まってます。その半分に達した時が折り返し地点、というわけです。お客様の場合、総量の半分に達するのが69歳。これからの人生で、少しずつ充実感があるのか、どこかで一発だけものすごく充実するのかは分かりません。」
と、補足説明。
なるほど。参考にします、と占い師の店を後にしたが、男は忙しい日々の中でこの結果の事など次第に忘れていった。

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