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【短編】 ビカクシダの神様

「これがアルシコルネ、3年モノ。で、こっちが、ビーチー。」
「しかし、よくここまで育てたな」

ビカクシダ愛好家のサラリーマン、健吾は友人に得意気に説明していた。特徴的な草姿の魅力を、多くの人に知ってもらいたい。

いつものように初心者向けのビカクシダを友人におすすめしたあと、日課のメンテナンスに勤しむ。

ビカクシダは通常の水やり以外にも霧吹きをしたり空気が淀まないようにサーキュレーターを回したりと、世話をしなくてはならない植物だ。
しかしそうして手をかけた分だけ立派な姿に育つので、いわゆる「ビカク沼」にハマる人も多い。

その日も「ビフルカツム」という品種のビカクシダの水ゴケを新しいものに変える作業をしていると、若い葉の間になにやら動くものを見つけた。

「うわ、何だ、虫か?」
虫が苦手な健吾は恐る恐る覗き込む。
【ああ、すみません。お邪魔しています】

虫がしゃべった。健吾は驚きのあまりのけ反って手に持っていたビカクシダを落としそうになる。
【ひゃ、危ない。落とさないでくださいね】

目の前で起きていることを受け入れられないでいる健吾に対し、虫は淡々と続ける。

【いや、あのですね、む、虫じゃありませんからね。私、ビカクシダの神です。】

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