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【短編】 ホヘンバ・ヌーサ

変わり者で知られる若者ジェミニは、今日もクラスメート達に訴える。
「本当なんだ。新月の頃、長雨のあとホヘンバ・ヌーサがこの村にやってくる。」
「おいジェミニ、いいい加減にしろよ。意味が分かんないんだよ。何だ、そのホヘンバ・ヌーサって」
「物語ばかり読んでるから、空想と現実の区別が付かなくなってるんじゃないか」

シャーマンの末裔であるジェミニは、海辺の小さな村で未来を予知する力を持って生まれてきたと、幼少の頃より村人達にひいきにされて育った。
彼が妙な事を言うようになったのは、12歳になった頃だった。

「僕は、太陽と月が1000回入れ替わるまでは我慢する」
「アズを食べ過ぎると、山道を歩けなくなるよ」
「昨日、村長が大きなスードリと食事しているのを見かけた」
「コガネムシが大量に死んでいたら、翌日から一週間雷雨だよ」
「ホヘンバ・ヌーサはこの村に変化をもたらすね」

「アズ」はこの地域の海で獲れる魚。「スードリ」は古来から伝わる魔物の事だ。
予言めいた発言も的中はせず、いずれもなんの事を言っているのか誰にも分からなかった。
ジェミニが疎外されるのに時間はかからなかった。
何を言おうとも、クラスメートはもはや・・・まともにジェミニを取り合わない。
そんなある日、クラスメートの一人、レオが食中毒で倒れた。
レオの家は代々漁師で、その日は大漁で市場に出しきれなかったアズを家族で食べた。しかしアズは適切に調理しないと食中毒になるリスクの高い魚なのだ。
海岸にあるレオの家から学校までは小高い山を越えなければ通うことが出来ない。消耗した体力が戻るまで、レオは通学が出来なかった。

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