見出し画像

【短編】 精鋭

俺に与えられた任務。

それは、仲間達のために独り、高くそびえ立つ塔に登りわずかな食糧を確保して帰還すること。

この任務をこなせるのは、俺だけだ。必ず成し遂げてみせる。
アレが帰ってくる。時間がない。もう動かなくては。

仲間は3人。普段はそれぞれ好き勝手に振る舞っているが、ここぞというときは絶妙な連携を見せる。
それが俺たち4人のチームだ。一人は見張り、一人は俺のサポート。あと一人は・・・寝てるから、ま、いいか。

アレが使っている、空気を吸い込んでキレイにして吐き出す四角い箱の上に飛び乗る。そこからアレがやはり愛用するごはんを食する時のバカデカい器がしまってある大きい箱の上に垂直大ジャンプ。
我ながら美しい跳躍だ。大きい箱の上の景色はよい。下のサポートとアイコンタクトした俺は、自分の体格ほどもある丸いかごの中にしまってあるご馳走に手を伸ばす。人数分確保したいが、これはなかなか持ち辛い。いや、くわえ辛い。この高さから安全に降りるには、二つが限度か。くそ。

時間との勝負だ。迷っている暇はない。即座に二つのご馳走が入ったツルツルしてくわえにくい袋とともに何とか床に戻る。
どうだ。俺はやると言ったらやる男だ。この住まいに来る前だって、ずっとそうだ。冷たい雨がカラダに打ち付ける、寒かったあの日だって、幼い兄妹たちのために食べ物をみつけてきてやった。
辺りでは上手く食べ物を確保出来ず弱っていくやつもいた。そんな中で俺は優秀だった。「精鋭」といっても言いい。結果は必ず出してきた。 あの時を除いて。

食べ物探しに苦戦しているうちに、うっかりよそのナワバリに踏み込んでしまった。そこの主を怒らせた俺は、戦いの末瀕死の傷を負いやっとの思いで棲み家に戻ったが、病気で衰弱しきった兄妹たちを助けることは出来なかった。

アレが俺たちをここに連れてきてからは、命の危険を感じたことはないが、
俺が種族として持っている本能は抑えることは出来ない。
チャンスがあるのに行動を起こさないなんて、自然界では生き残っていけない「落ちこぼれ」だ。
もっとも、ここは自然界ではないのだが。

アレは、朝出掛けて夕方に戻ってくる。何をしているのかは知らないが、俺を含め一緒に連れてこられた仲間3人がなに不自由なく暮らせているのは、アレのお陰なんだろう、ということは分かる。

気が向いた時に皆でお礼を言っているのだが、異なる種族だから言葉は通じてはいないようだ。

さあ、アレが帰ってくる前に、戦利品を頂くとするか。おい、みんな。持ってきてやったぞ。早くしろ。

「ガチャ」
いかん。アレが帰ってきてしまった。みんな、適当にごまかせ。

「あっ!コラ。また盗み食いしようとしたな、コリン。あんな高いところにあるのを良く盗ったな。全く。猫の身体能力はホントにすごいな。ミーコもチーも、メンちゃんも、ダメだろ!」

チッ。かつて精鋭だった俺もすっかり飼い猫だ。まあ、これはこれで悪くないが。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?