見出し画像

モーニングセットのパンの歯触り

もう20年以上前の、東京で仕事をしていた頃だけれど、ごくたまにチェーンのコーヒー店で朝ご飯を食べるという少しの贅沢をしていた。その数百円がというより、その15分を贅沢として満喫していたんだ。

睡眠をとにかく大事にしていた(というと格好良いけれど、単に寝るのが好きだったのだ)私だったが、そこのモーニングセットを突然思い出しては早く家を出てそこに立ち寄るためだけに普段使わない駅で降りたものだ。幸いそこは一番混む区間を過ぎてからの駅だったから、頭の中はどのサンドイッチにしようかという(どうせその場でしか決まらないのに)悩みでぐるぐるさせながらもいつもすんなり下車し改札を早足で通り抜けることもできた。

あの頃も朝ご飯のセットは300円〜400円くらいだったか。
その頃コーヒーは大抵ブラックで飲んでいたのだけれど、そこでの朝ご飯のときだけはひとつ、小さな容れ物に入ったミルクを入れていたっけ。ブラックだと折角の「朝ごパン」が、なんかヘンな味になる気がしたのだ。
普段、朝ご飯を食べずに仕事に出ても平気だったけれど(くどいがその5分、寝ていたかった)、もう純粋にそこのモーニングセットの「パン」が好きだったのだ。時々無性にそれを食べたくなって、30分早く家を出たりした。

セットが乗ったトレイを持って席に座り、コーヒーの前に皿の上にあるサンドイッチ(あるいはホットドッグ)にかぶりつく。パンの製造法がなにか特殊だったのか、あるいは焼き加減なのか分からないけれど、ざくり、と音がして、唇の周りからぽろぽろと細かなパンくずが落ちる。慎重に、パンくずが皿の上に落ちるように少し頭の位置を変える。指先で口の周りについたものを落とす。
口の周りにつくパンくずやタマゴサンドの卵を見る人はいないのに もぐもぐしながら毎回 口の周りを拭いていた。食べているときは(アゴの動きで時々イヤホンが落ちるから、というのもあったけれど)音楽は聴かず、店のなかの音を遠い意識で聞いていた。歯を立てるそのサンドイッチやホットドッグの噛みきるときの音が、一番やかましく耳の奥に響いた。

チェーン店だからこそ、ではあるのかもしれないが、どこにあるお店でも そのモーニングセットは美味しかった。私はごはん党だったけれどそこのモーニングセットがものすごく好きだったのだ。

あのパンの香りと歯触りがあまりに好きだったので、去年の暮れにバルミューダというトースターを買ったほど。でも、あのモーニングセットとはどうも違う。家でだらだらしながら食べるからだろうか。

こちらの記事で、そのお店のサンドイッチのパンが変わった、と読んであの頃自分の生活の中で「朝の贅沢」としていた15分を思い出した。あの一口噛んだときの音も、匂いも、ぱらぱらと落ちるパンくずのイメージも瞬間的にもどってきた。

サカキさんの描写を読んでいると、新しいタイプのパンも以前のものに劣らずとても美味しそうだ。(むしろサカキさんの言葉だと更に美味しくなっているようだ)
次に日本に帰れたら、絶対ここのモーニングセットを食べに行こう、と密かに誓った。日本のすごいところだよね、チェーン店のごはんも全く侮れないところってさ。


ああ、そろそろ日本に帰りたいなぁ。ワクチン打ったら2週間縛り、免除してくれませんかね?

サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。