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スキなことと歩いて行くこと

好きなものや好きな事は 仕事じゃないのがいいんだよ。

ある日、娘にきっぱり言われて昭和な私はびっくりした。


10年位前から「好きなことを突き詰めていく」「好きなことを仕事にする」そんな言葉がもてはやされていた。
とても分かる気はする。好き、は様々な難しさや困難を平気で乗り越える、いや、軽々と飛び越えるジャンプ台みたいなパワーをもったものだから。

けれど 好きを仕事にすると義務になったり責任が増えて辛くなるという人もいる。それもよく分かる。
あるいは嫌な仕事でも続けて行くと好きな部分がみえてきて人より秀でるものだよ、と教えてくれた職人さんもいた。それも本当の事だろう。

仕事をライフワークではなくライスワーク(生きて行くコメを手にするためにする仕事)にしたら、それは嫌な面しか見えてこないだろう。私にとっては研修医時代ってそんなものだった。

「実際は生きるため生活費のために働くひとが大多数だよ」

多分私はそう思っていた。諦めていた。


殆どアメリカで育ってはいるが娘は日本が大好きだ。アニメが好きすぎて「声優になりたい」と、15歳のとき一時帰国の間に声優を育てる学校のオーディションとやらを受けた。受かりはしたけれど高校、もしくは大学を卒業したらいつでもおいで、と言われたそうだ。少し考えていたけれど、なにか納得することがあったらしい。

結局今はアメリカの大学で建築を学んでいて、ヒマを見つけて(いや、作り出して)いまだにアニメやマンガの模写を趣味でやっている。

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アニメキャラの模写を1日一枚描いていた頃もあって、タイムラプス(長い時間録画して、それを数十秒の動画にするもの)でそれを録画し投稿していた。今は流石に忙しくて毎日一枚とは行かずとも、課題が一段落したり気分転換の2時間が確保出来たときは描いている。Tiktokでフォロワーも増え、微々たるもの(月に数ドル、マンガ一冊も買えない)だがお金が入るようになったらしい。

うちの娘はどこに向かっているんだ?とからかってしまう。

相変わらず声優さん達のファンで、声を聞くとこのアニメの声優さんは○○さんだ!と当てたり、△△さんは今度あのアニメの××役だ、なんていうことをすごく良く知っている。
模写した絵は彼女の部屋中の壁に貼られ、そのアニメやマンガをよく知らない私達は トレースしたの?と聞いては 違うよ!と娘に怒られる。

「そんなに好きなら、アニメをつくる仕事や、声優さんの世界に近い仕事を探していけば?」

結構本気で 夫と私が彼女に話したとき、娘が言ったのだ。

「好きなものや好きな事は仕事じゃないのがいいんだよ。じゃないと嫌いになるでしょう」

「好きなことが続けられるような仕事をして、ちゃんと生きていけなきゃ」


そういえば、アメリカで建築学部は殆どの大学でアート(芸術学部)に属するが、彼女は工学系のバックグラウンドのはいった建築学部へ進んだ。「日本でも通用するには工学系も分かんなきゃ」と。好きなことの側で生きるために日本に行きたいらしい。

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好きなことを見つけられたひとは幸せだと思う。
そして好きなことを続けられたらきっと幸せだ。

好きなことを続けるための自由を手に入れる方法を、彼女なりに考えたのだろう。いつまでも子供だと思っていたら、好きと一緒に生きて行く手段を手に入れることが大事だ、と当たり前の様に言い切られて、ちょっと悔しく、すこし頼もしく思っている。


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