昔話を聞いてくれる?
この話にはオチも気付きもないけど、聞いてくれる?
多分 私が世間知らずでバカだったんだとおもうけどさ
ただ 聞いててくれればいいんだ
で、そのまま流してくれるかな?
大学生の時にさ・・・バイトしようって思ったんだよね。
高い学費も生活費も出して貰ってるからさ。
ちょっとは 友達と遊びにも行きたかったけど、
そのお金を親にお願いするのは違うなぁと思って
自分で働こうじゃないか!ってね。
求人情報誌買ってきてね。
自分がバイト出来そうな時間と求人の条件と合わせてさ。
で、ひとつ気になったところ 条件も上手く合ったの。
銀座の、私も知ってるエリアの懐石料理のお店。
大通りに面した雑居ビルにあるその店名は私も知っていた。
和装で働くけど着物は貸し出し。
時給はフツウだけど、いろいろ学べそうな気もして
履歴書 送ったんだよね。
数日後 そこの女将さんなのかな、
責任者の女性が電話してきてくれてね。
いろいろとフツウの最低条件の確認みたいな話して
ま、つまりは「バイトに雇えない」って言われたんだけど
理由がね。。。私が医学生だったからだって。
意外すぎてボーゼンとして 全部をよく覚えていないんだけど、
ほかの理由ならそうですか、って言えたと思うんだ
顔がイマイチ、でも
着付けが出来ないと、でもいいから
でも結局 始終「諭されて」いたの。
親御さんはここでバイトをすることを知っていらっしゃいますか?
うちはきちんとした店だけど
でも「銀座の客商売」なんですよ
やがてお医者「様」になるひとが
ここで働くっていうのは良くないんじゃないですか
ってやんわり やんわり 叱られたんだな。
電話を切って 動けなかった
断られた理由は 分かるけど分かりたくなくて
手がまだ震えていた。
そのあとお風呂にはいったんだけど
バイトの面接で断られるなんてよくあるんだよね、きっと
でも その理由が分かるようで分からなかった
確かに正論かもね でも受け入れられなくてさ。
お医者様、って・・・・
まだ試験だって通ってない学生だよ。
あなたみたいな人が
この世界で仕事をするなんて
結局 接客って水商売なんですよ
そういう考え方があったのは知っている。
そうやって遜(へりくだ)るお店の人にも会ったことがある。
どれくらい風呂に浸かっていたのか
湯はぬるくなっていて
てのひらを見ると指先がしわくちゃでね。
あちらの心遣いだったのだろうと分かっているんだ。
だけど怒っても仕方ないことに腹が立ったの。
すごく悔しかった。
私は接客業を選んだんだ。
それは自分の人生に絶対役立つと思っていたし
自分がこれから向かう未来に大事になると思っていたし
なにより 接客業は向いてるだろうって自信もあった。
医者だってサービス業なんだからさ。
湯でふやけた私の手は
たしかに労働らしい労働をしたことはなくてさ
ペンだこはあっても 掌の皮は柔い。
今でも思うよ。
きっと あの女将さんには感謝すべきなんだろなって。
銀座という場所で ハタチそこそこの学生が働くと言うことが
銀座に出入りする人達のなかで
どのように見られるのかということが
銀座という場所柄もあったのか
そのあと私は客としてしか
銀座の店の暖簾をくぐったことはない。
上の先生に連れて行ってもらっての銀座のバーとか
父にご馳走するために選んだ店とか
大事な友達のお祝い
四姉妹でのフランス料理フルコース
客で行く銀座は 気取ってもいなくて ちょっと緊張感があって
気持ちの良いサービスも受けられた。
けどね 今も思うの。
まだ あの古い時代の目に見えぬしきたりってあるのかな と
私って そんなに特別な「お嬢さん」でしたか?って
労働に貴賤無しは 絵空事だという世界はまだ現存しますかって
もやもやするものと怒りに似たじくじくした熱とを
あれを思い出すと 今も感じているんだ。
・・・え?バイト?
そのあと、大学近くの手打ちうどん屋さんでバイトしたよ。
あのうどん屋さん、まだあるかなぁ。
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くくるさんの#青春と人生の交差点 :お題「初めての○○」に参加します。くくるさん、遅くなってゴメンね!
そうそう、私のは「初めての、面接前に断られたバイト」です。タイトルに入れちゃうとつまんないんで、こちらで。
締め切り6月末日だから、みなさんに参加してもらえるといいね!!
サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。