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今週の日記|聞くともなしに聞く

1月25日 聞くともなしに聞く

週末の雨で潤った街に、朝からあたたかい陽が射している。願わくは、月曜日はいつもこうあってほしいもの。

ここ数日、ツピーツピーといって春を呼ぶシジュウカラの声がきこえはじめた。まだこのあいだ年が明けたばかりだというのに…… いつになく早い。焦るな。

朝、なにかの拍子に6時すぎに目がさめたときには、布団に入ったままゴソゴソとラジオをつける。そして、まだ薄暗くて青い部屋にバロック音楽が流れるのを夢うつつに聞きながらまどろむのが心地いい。

思えば、おそらくもう何十年もこの時間帯のNHK-FMはバロック音楽のはずだ。厳密に言えば、バッハやヴィヴァルディ、ヘンデルといったバロック以外にもグレゴリオ聖歌やマドリガーレなど中世やルネッサンスの音楽もふくめた「古楽」の時間である。

ちなみに番組名を調べたら、やはり『古楽の楽しみ』となっていた。でも、自分のうっすらとした記憶はかならずしも間違ってはいなかったようで、この時間帯の番組は『バロック音楽の楽しみ』『あさのバロック』『バロックの森』とタイトルを変えながら40年以上続いているとのこと。

ラジオから流れるチェンバロやパイプオルガン、教会音楽の斉唱を、聞くともなしに聞いている。それはなんの具体的な像も結ぶことなく、ときには夢のなかの出来事と混じり合いながら、ちょうど波打ち際に立っているかのように遠く近くただ響く。

音楽との向き合い方としてはあまりにも消極的といえなくもないが、自分にとってはこのように聞かれる「バロック音楽」がきょう一日の「滋養」になっていることは間違いない。ただし、知識はいっこうに増えない。

聞くともなしに聞くといえば、フィンランドのデザイナー、カイ・フランクの作品に「アテネの朝(Ateenan aamu)」といううつくしいモビールがある。

モビールというよりも、球体のガラスでできたそれはぼくら日本人には「風鈴」と呼んだほうがしっくりくる。カイ・フランクの風鈴。

はたしてカイ・フランクがこれをどのように着想したのかはわからないが、このカランコロンと鳴る夢のような響きを聞くにつけ、それはアテネの宿の寝床のなかで夢うつつに聞いた教会の鐘の音にちがいない、そんな気がしてくる。

遠く近く響くその音色は、まさに夢と現実の波打ち際に立っているときのあの心地よさをなにより思い出させてくれるからである。

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