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【映画】エル・プラネタ El Planeta/アマリア・ウルマン

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タイトル:エル・プラネタ El Planeta 2021年
監督:アマリア・ウルマン

小綺麗な服装にディオールのバッグ。主人公レオがマッチングアプリで知り合った男性と売春を持ちかける冒頭には驚かされるが、セックスの匂いをあまり感じさせない彼女の見た目と、売春の現状を知らなすぎる彼女のちぐはぐさが目立つ。スペインでは売春が合法とはいえ、体を売るという状況からいかに彼女が困窮しているのかがいきなりマックスの状態で示されている。

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街を歩けば空きテナントばかり目立つヒホンはスペイン北部の港町で、主に夏の観光業が中心になっていることもあり、劇中のような真冬の時期では浜辺も閑散としている。観光業としてはフランスに次いで第二位のスペインではあるが、失業率は高く2020年の時点で25歳までの若者の4割を占めているという。

①年間を通して安定した職場がない。
②経営者が人を雇うのに短期の採用を好む傾向にある。長期間の雇用を避けようとする。
③大卒でも特殊技能の分野で優秀な成績を収めた学生やアイディア豊富な学生は職場が見つかるが、単に大学を卒業したというだけでは職場はない。
④スペイン企業の95%は従業員が10人以下の企業だということ。

ハーバー・ビジネス・オンライン 
若者のほぼ2人に1人が失業者になるスペイン。その要因に見る日本との近似性

20代と思われるレオが仕事を探す様子もなく、体を売ろうとしたり、ミシンなどを売ったりしているのは、そもそも彼女が求める職種の求人がない事ではあるが、セリフにもあるようにファーストフードなどの仕事はあるようだ。映えない仕事はしたくないという事だろうが、ロンドンで学んだ服飾に関わるミシンを手放したり、身銭を切ってでも生活を保とうとしてるのは分かる…がそれは売っていいの?とつい疑問に思ってしまう。
この映画は宣伝やプレスでもしきりに盛り込まれているように、映えるための虚飾と貧困がテーマになっている。貧困を象徴していたのが、海外でのスタイリストの仕事のオファーを受ける際に、窓辺でマックブックを片手に何かを探しているが、これは他の家のWifiに繋ぐためだと思われるが、ポン・ジュノの「パラサイト」の主人公家族と全く同じことをしていた。
飾り立てるという点では、モスキートのゼブラ柄のセットアップで着飾り、母親も毛皮のコートを身に纏い裕福なふりをしているが、現実でもSNSでも人からどう見られているかが彼女たちの病的なライフスタイルを表していた。レオに対して何度か出てくる「髪を切ったんだね」というセリフから、SNSなどに使っている自分のサムネイル画像が盛った映え画像なのかも会話からわかる。面白いのが、やたらとスマホをいじっているシーンがあるものの、実際にツイッターなどを投稿するシーンは一切ない。SNSの中の煌びやかな世界を見せないことで、現実に暮らす彼女の姿を見せることで、実生活はこんなもんだよねというのをありありと見せつけられる。

それにしても独特で変な映画である。主人公を演じたアマリア・ウルマンは監督、脚本、プロデュース、衣装も担っているが、元々ロンドンでファインアートを学び、インスタ上で「Excellences & Perfections」というパフォーマンスを行ってきた人物である。

巧妙に作り上げられた人物像をインスタで投稿し、デジタル上で保存するパフォーマンスを行ってきた。そのバックグラウンドを知っているかどうかで、この映画の見方は変わってくるんじゃないだろうか。このパフォーマンスの延長にこの映画がある。独特なテンポとモノクロの映像、スペインの現状などある種の魅力はあるが、映画自体はどうも成功したとはちょっと思えない。映画として成り立たせるのは、もうちょっと振り切った内容にした方が良かったのでは?
とはいえ本作のポスターに映る物憂げな表情のあのシーンは、かなり良かったので今後どのような作品を作るのかは楽しみである。

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