【映画】イノセンツ De uskyldige/エスキル・フォクト
タイトル:イノセンツ De uskyldige 2021年
監督:エスキル・フォクト
ユーロライブにて試写で鑑賞。「わたしは最悪。」や「オスロ、8月31日」などのヨアキム・トリアー監督の諸作の脚本を手掛けるエスキル・フォクトによる監督作…と聞くとドロっとした人間模様を描く、不条理なヒューマンドラマっぽいのかなと思いきや全くテイストの異なる作品だった。とはいえ、映像はヨアキム・トリアーに近い雰囲気を感じさせる画作りが施されている。まあヨアキム・トリアーというよりもラース・フォン・トリアーの方が近いのかも。
それ以上に驚いたのが作品鑑賞しながら大友克洋の「童夢」と「AKIRA」みたいな作品だった事。「童夢」の舞台となった団地の様なマンション群と、「AKIRA」でのサイキックバトルを思わせる場面の数々はまさにこれらの作品みたいだなと。なんて思っていたら、上映後のトークショーで森直人さんが「童夢」を手に登場して笑ってしまった。やはり監督は「童夢」へのオマージュで作ったという事だった。とはいえ「童夢」と少し異なるのは、あの壁にドーンという様な表現はなく、どちらかといえば「AKIRA」の中でクスリで覚醒した能力者などナンバーズ以外の力みたいな感じ。心臓をぎゅっと掴む表現や、石が飛んだりと大友作品の中でも地味な部類の能力の場面が盛り込まれていて、その辺りはかなり抑えた表現にとどめていた。ジョシュ・トランク監督の「クロニクル」みたいに分かりやすい激しいサイキックバトルとは全然違っていて、どちらかというと心理戦のような描き方や、じわりと頭を伴う感覚が本作の面白い所だったと思う。
しかし、ただ単純にサイキックバトルが繰り広げられるだけじゃなく、音と編集でじわりと恐怖を煽る描写も多い。ガラスを靴に入れる直後にプチプチを潰す場面に切り替わる時、イヤーな感覚を呼び覚ましたり、ノイジーで不穏な音楽がじっくりと不安を掻き立てる。霧に包まれたマンションを舐める様に映るカットでは、よく観ると天地逆さまになっていて、不条理かつ幻想的な映像は美しくも何か起こる不穏さが続く。
意識を乗っ取る場面では、恐怖を描くのに化け物に変わり果てた姿が一瞬出てきたりと結構細かい演出が印象に残る。
主人公の子供たちも、自閉症のアナや、母子家庭のインド系、アフリカ系と思われる移民たち(後半では他の家族でもアジア系と思われる人々も映る)が登場する。恐らく舞台は夏のレジャーシーズンで、マンションに人気が無い。バックグラウンドには貧困が含まれていると思うが、子供たちが抱える孤独や家族の中の軋轢が詳しく描かれないものの、常軌を逸した行動に出る子供たちの理由なのかもしれない。
先に挙げた「クロニクル」が少し荒唐無稽なSFものになってしまったのに対し、こちらはそれに比べると主人公達が抱える興味本位の暴力的な内面を描いている。感情を抑制出来ず力の赴くままに衝動的に行動する時の、何を起こすのか予測できない行動が何よりも怖さを感じさせる。
森さんの解説によると、ヴィクトル・エリセ監督の「みつばちのささやき」や、ジャック・ドワイヨン監督の「ポネット」など、子供の視点で描いた作品も参照しているという事で、確かにそういった子供たちが抱える何をするか分からない不安定な気持ちを捉えた雰囲気も感じる。
とにかく本作は音も重要な要素なので、出来れば劇場で鑑賞するべき作品だと思う。痛い表現も多いので好き嫌いは別れると思うけれど。