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【映画】ミッドサマー Midsommar/アリ・アスター

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タイトル:ミッドサマー 2019年
監督:アリ・アスター

※初っ端からネタバレします!


サイケデリックな悪夢

いやはや凄いものを観た。ラストの惨劇の後のダニーの開放感に満ちた、してやったりな笑顔は「ああ!そう来たか!」と唸った。キューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」のアレックスの企む表情や、ラース・フォン・トリアーの「ドッグヴィル」での成敗する様に近い。周囲の恋人や友人に散々振り回されたと思いきや(振り回されてるんだけど)裏切り者はぶっ◯すという晴れ晴れとしたあの表情は凄い。鬱というテーマもトリアーに近い物がある。特に出来事を通してブレイクスルーしちゃうところなんて、話やテーマは違えど「メランコリア」に通じるんじゃないかと。

とにかくこの映画はサイケデリックな表現に尽きる。しかもバッドトリップな悪い酔い方が貫かれてる。上下逆さまになったり、背景がグニャリと歪んだり平衡感覚がどんどん崩れていく。カメラワークの凄さもあらゆる所で感じられた。高い位置から椅子に座る所までスムーズにパンしたり、構図もかなり計算され尽くしている。村の雰囲気はファンタジックでは非現実的で、夢なのではないか?という思いに囚われながらも、ドラッギーな表現がさらにそれを後押ししている。
扇状的な音もサラウンドで不吉でイヤーな雰囲気が終始保たれている。とにかく見所が多いし、常に次はどういった嫌なシーンが出てくるんだろう?という緊張感が常に付き纏っている。
あと観ていてアレハンドロ・ホドロフスキーの「ホーリー・マウンテン」あたりも影響元にあるのかなと。

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勅使河原宏監督の「砂の女」なんかも参照したみたい。安部公房のあの世界もたしかに入ってるのかな。じめっとはしてないけど。

キリスト教が淘汰した土着的な宗教

宗教的なテーマとしては昨年のグァダニーノ版「サスペリア」と共通している。

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キリスト教が押しやった土着的な宗教が取り上げられていて、邪教な扱いだとおもうのだけど、そこにいる人たちにとってそれは当たり前にある物で、イノセントなものであり他所から来た人のほうが不純な動機を持っている。それは人類学という興味が発端になっていて、宗教的な儀式を自分たちの私利私欲に取り込もうとしてそこに訪れる事自体が不純に思える。この映画が面白いのは、生贄という行いが湿っぽく描かれず白夜という白日の元でカラッと描かれている事。暗がりという演出が無い中で、あの狂気の描き方は凄い。更にダニーが感じている疎外感も上手く描いていたと思う。
ヴィジュアル面も含めて「ウィッカーマン」と似た映画でもあると思う。どちらも閉鎖的な土着的な宗教の祭や、宗教観の中のセックスや生贄は共通している。この映画を観る前に「ウィッカーマン」は観ておいた方が良いかもしれない。ただ生贄になるツーリスト達に宗教観が浅いのは大きな違いとも言えるのだけど。

因みに崖から落ちて、顔面粉砕される老人は「ベニスに死す」で有名なビョルン・アンドレセン。

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顔面粉砕といえばキャスパー・ノエの「アレックス」や、それを元にしたニコラス・ウィンディング・レフンの「ドライブ」が有名だけど、ノエは扇状的に描いていて、本作では意外とあっさりとしていた。過剰な音の演出が無いからかも知れない。ゴアな表現は多かったけど、思ったよりも意外とキツくはなかったかな。まあこんな事に慣れてもしょうがないんだけど。

アスター監督の前作「ヘレディタリー」がオカルチックなホラーになっていたせいか、おっかなびっくりな演出にあまり感心しなかったけれど、「ミッドサマー」はより深い部分が描かれていて、ラストの燃やすシーンは妙なカタルシスがあった。どえらい事が起きてるのに、なんか妙に納得がいくというか昂りに圧倒された。

ひとつだけ難をいえばやはりモザイク…というかぼかし。別に結合部分見えないでしょ?あの体位になると映倫が入るのは知ってるけど、監査する側の童貞臭さしか感じない。その後の股間を握りしめて隠しながら逃げる様はちょっと笑ってしまった。

エンドロールはウォーカーブラザーズで有名「The Sun Ain't Gonna Shine」のフランキー・ヴァリバージョン。

歌詞を読むと中々意味深い物なのかなと。
※ジャケットをよく見ると担ぎ上げられていて何気に映画とリンクしてる…。


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