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『パッとしない子』 辻村 深月 (著) / 登場人物を上手く嫌な人に描いた短編

辻村 深月氏(カテゴリーはミステリー作家)の物語を読むのは初めて。
若い頃よくミステリーを読んだが、最近はご無沙汰。

昨年『傲慢と善良 (朝日文庫)』が、丸善丸の内本店文庫ランキングに長く入っていたのを覚えている。

『パッとしない子』はKindle Unlimited。

Kindleで 49頁と短い。note検索すると感想文が多い。

小学校では、およそ先生も生徒もごく短い期間で入れ替わっていく。先生からすれば、生徒の顔を覚えるのも大変だし、勤務経験が長くなれば、生徒の数は累積し、記憶にも濃淡の差が出てくる。優等生、すぐ懐く子、やんちゃな子、問題児、そして、印象の薄い子。そんな教師と生徒の関係をスリリングに描いた作品だ。

小学校の図工の教師、松尾美穂はその日を、ちょっと高揚した気分で迎えた。教え子で、人気絶頂の男性アイドルグループのメンバーになった高輪佑(たすく、25歳)がテレビ番組収録のため、母校を訪ねてくるのだ。10数年前、美穂が担任をしたのは、佑の3歳下の弟だが、授業をしたのは事実で、佑ファンの娘にも羨ましがられている。美穂の記憶にある佑は地味で、パッとしない子供だったし、プロはだしと称賛される絵の才能も、片鱗は見いだせなかった。撮影を終え、完璧な笑顔で現れた佑は、意外にも松尾に話したいことがあると切り出したが……。

パッとしない子 (Kindle Single) Kindle版

雑感

教師と教え子が対面してからのシーンが、物語の大半を占める。
 
学校が用意した控え室で話をしているうちに、途中から付き人もいなくなり高輪佑松尾美穂に(視点での)思い出したくもない小学生時代の話をする。
 
10年以上経った過去」という記憶の曖昧さをうまく使い、一方の「思い込みの過去」、もう一方の「とっくに忘れた過去」を話の中心に据え、ストーリーを盛り上げる。
 
高輪佑が小学校から立ち去ったあと、二人だけの時間で何があったのかを小学校の事務員が囃し立て、松尾美穂は悶々とするが更に新しい事実を知り愕然とする。それでも高輪佑が話した過去より、自分の記憶が正しいことを自身の中で反芻する。
 
二人とも独りよがりで聞く耳を持たない、社会や組織で時々見かけるタイプ。
成人して自らそれを直すことはなく、周りからのアドバイスは難しい。
そんなことを考えながら、過去に会った人を思い出す。
 
辻村 深月氏は教育学部卒なので、教育実習をされているはず。
教育実習で学校に来た若い先生が、生徒から人気が出たり親しまれることもご経験で、それがこの小説に生きていると思う。
 
卒業してからは団体職員として働きながらミステリーを書き続け『鍵のない夢を見る』で、第147回直木賞(2012年上半期)を受賞。

 
『パッとしない子』のように短くて分かりやすい小説は、物語に入り込む前に「文章の書き方」や「ストーリー展開」が気になる。
厚かましく「自分だったら、ここはこう書くな」とか思ったり。
 
この小説は会話文がほとんどで情景描写もあまりなく、登場人物二人の会話を追うだけ。
その会話文だけで、noteには思い入れのある感想文がいくつも並ぶのは、この作家さんが場面設定や会話の進め方を含め、読者の心を掴むのが上手いからだと思う。
 

MOH
 
 
 

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