小話「放課後、残ってもらっていいですか?」
たまにはオチの無い、物語を披露しても良いですよね😊
うちの部屋の課長、定時が近づいてくると、こう言うのよね。
「放課後、残ってもらっていいですか?」
いやいや、ここは会社だし、学校じゃないのだから『放課後』はないでしょう?
ハッキリと残業命令を出せば良いじゃないですか?
今日も午後5時になるころ、それまでどこかに行っていた課長が部屋に戻ってきて、
「放課後、残ってもらっていいですか?」
と部屋のみんなに聞いてまわる。
たしかに年末だし、忙しいし、仕事がたまっているから残業は仕方がないけど、なんで『放課後』なわけ?
私が独り言でブツブツ言っていると、隣にいる主任が『まあまあ』という顔で話しかけてくる。
「あの課長、気が弱くてさ、部下にも『残業』って言い出せないんだよ」
「何でですか? 職責者なのだから、はっきりと言えば良いじゃないですか」
「それが、そう簡単にはいかない理由があってさ」
「何ですか? その理由って」
主任の意味深な言い方が気になる。
「実はね………」
主任は声を潜めて、課長が若い頃に職場であったことを、あたかもその場に居たかのように説明してくれた。
「そうだったんですか?」
「いや、俺も人から聞いた話だから本当かどうか分からないけどね。課長を見ていたら、妙に納得しない?」
「おっしゃるとおり、十分納得です」
次の日から、課長の
「放課後、残ってもらっていいですか?」
という声を聞くたびに
私は
『よし、頑張ろう』
という気持ちになっていた。
(了)
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
MOH