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金とプラチナの価格差拡大とその背景


金とプラチナの価格について

 すでに金を保有している方や、現在は保有していないものの金の価格動向に注目している方も多いと思います。今回解説するのは、伝統的に金の価格と連動すると言われていたプラチナの価格が、金の価格と大きく乖離してきていることについてです。具体的には、金とプラチナの価格差が2倍以上に拡大してきているという現象について考察します。これが何を意味するのか、そしてさらにこの価格差は拡大していくのか、深掘りしたいと思います。

金とプラチナの価格変動と生産量について

 金とプラチナはどちらも貴金属で、宝飾品にも使われます。しかし、金は宝飾品の他に投資目的で保有されることも多く、金塊のまま保有されている場合も多いです。一方、プラチナは自動車部品や工業用に使われることが多いという特徴があります。つまり、実需によって価格が変動しやすいプラチナと、投資によって価格が変動する金という、異なった特徴があります。
 もう一つの特徴として生産量に大きな違いがあります。金は年間の生産量が大体3,000トンぐらいあると言われています。一方で、プラチナは200トンぐらいしかないと言われており、生産量が15倍ぐらい違います。このような生産量の違いから、これまでに生産された総量は、金は20万トン以上だと言われています。一方、プラチナは1万6,000トン程度とされています。つまり、プラチナの方がはるかに少ないことが分かります。また、プラチナは、生産されている地域も限られています。年間生産量の約70%が南アフリカで生産されており、12%がロシア、15%が北米、ジンバブエなどとなっています。このことから、プラチナの方が希少性が高いことが分かります。

金とプラチナの価格の歴史的な動き

 金とプラチナは、価格がよく比較されることも多いですが、歴史的には比較的価格が連動して動いてきました。1990年代は価格が均衡していた期間が長かったのですが、2000年代に入ってからプラチナの価格が金価格を上回る期間が続きました。これは、中国などの新興国経済が成長し、世界で自動車がたくさん売れてプラチナの工業的利用が増えたこと、また1990年代後半のロシア通貨危機の影響でロシアからのプラチナの供給が不安定化するといった要因があったと見られています。

出所)「金プラチナ相場情報Let's GOLD」(2024/6/1)

 この動きに変化が見られ始めたのが2008年のリーマンショックです。リーマンショックをきっかけに世界経済が低迷したことや、2010年代に入って中国経済の成長率にも徐々に限界が見られ始めたことなどから、プラチナの価格が下落傾向になりました。
 一方、金については、世界的な金融緩和による金余りで投資資金が金に向かったことや、各国の金融政策の影響で通貨の価値が下がり、資産を保全するために金を保有しようというニーズが高まったことなどから、徐々に金価格は上昇しました。

金とプラチナの価格差の拡大

 特に、世界の中央銀行がマイナス金利の導入に動いた2016年頃から、金価格がプラチナの価格を明確に上回るようになりました。そして、2020年に新型コロナのパンデミックが起こり、世界の多くの国で財政出動と金融緩和が拡大すると、さらに金に上昇圧力が加わりました。この時、プラチナにも上昇圧力がかかりましたが、工業的需要の多いプラチナの上昇幅は限られ、金の方がより大きく上昇しました。その結果、両者の価格差がさらに拡大する展開となりました。

金とプラチナの価格差の現状とその理由

 2022年頃からさらにこの価格差が拡大し、2024年では金の価格はプラチナの2倍を超える水準まで上昇しています。特に、2022年頃からプラチナの価格が下落する中で、金の価格が上昇する傾向が鮮明で、両者の値動きの連動性が低下してきています。こうしたことはなぜ起こっているのでしょうか。これについては、中国などグローバルサウスの国などを中心に金を保有する動きが関係していると見られています。

中国の金保有増加の背景

 中国においては、外貨準備と言って、為替の安定性をもたらすために政府が保有している資産で、金の保有を増やす動きが見られています。これは、アメリカがウクライナ戦争でロシアに対して経済制裁を行ったことなどから、同様の制裁を受けても影響を回避できるように、なるべく保有資産を分散化させたいという動きだと見られています。
 世界で米ドル以外の通貨で決済する動きも増えてきていますが、そうした動きの中で、金本位制ではないですが、安全資産としての金の保有を増やし、金融システムの安定性を高めたいという狙いがあると見られています。

中国の民間による金保有増加

 一方、民間人による金の購入が中国などを中心に増えているという見方もあります。中国の場合、資本移動が制限されている国ですので、中国経済が危機的状況になり、海外に資産を移したいという状況になっても、簡単に海外に資産を移すことはできません。そうした中で、金を買うというのが資産を保全する一つの方法になっていて、中国においては民間の金保有も増えていると言われています。おそらくこれは中国に限った話ではなく、他の資本移動が制限されている国でも見られている現象だと思います。

中国の経済低迷とプラチナ価格の下落

 逆にプラチナの方は、中国の経済低迷によって工業的な利用の減少傾向が続く可能性が高いことなどから、価格下落が続いていると見られています。それに加えて、脱ディーゼルの動きがプラチナの需要を押し下げているとも言われています。自動車に使われているプラチナというのは、ディーゼル車の排ガス浄化触媒用途が多く、それがプラチナの需要全体の4割にもなると言われています。こうした要因でプラチナの需要が減少してきていると言われています。結果として、金とプラチナの価格差が拡大してきているわけです。

金とプラチナの価格差の今後の見通し

 金やプラチナなど、いわゆるコモディティと言われるものの価格については、理論的に説明するのは非常に難しいです。金とプラチナは貴金属に使われるという似た特徴があるものの、工業利用のプラチナと投資目的の金という位置付けはお互いに代替するのが難しいことなどから、いわゆるアービトラージ取引みたいなことは難しいと見られています。
 歴史的に見れば金に対してプラチナは今すごく割安に見えますが、こうした状況がしばらく続くと考えた方がいいのではないでしょうか。

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