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中国の国債発行の増加と海外投資家の影響



中国の国債発行の増加

 2024年5月17日から中国が国際の発行を増加させ、債権市場で話題になっています。

中国の経済状況と国債発行

 現在、不動産バブルの崩壊や過剰債務の問題などで経済が低迷している中国ですが、3月の全人代の時に1兆元の景気対策を行うことが決定されました。その資金調達のために、5月17日から半年間にわたり中国政府は債券市場で資金を調達していくことになります。
 今回発行される国債は、20年物が3,000億元、30年物が6,000億元、そして50年物が1,000億元となり、すべて超長期の国債で調達することになります。

 1兆元(約20兆円)の景気対策を行っても、問題は先延ばしにされているだけで、中国経済が現在の厳しい状況を抜け出すことは難しいと見られています。しかし、今回のような債券発行が始まり、今後も中国は国債の発行を増やしていくことが予想されます。

中国国債の保有者

 では、この増える中国国債を誰が買うのでしょうか。また、現在誰が中国国債を保有しているのでしょうか。中国の国内投資家が大部分を保有していますが、海外の機関投資家の保有も最近大きく増えています。金融メディアの記事でも取り上げられていますが、なぜ彼らが中国国債を保有しているのか、その理由はあまり知られていません。

中国国債の保有増加の理由

 一部の記事では、中国とアメリカの金利差が縮小したために中国国債の保有を増やしていると報じられています。また、グローバルサウスの人々は、アメリカの国債を売って中国国債の保有を増やしているのではないかと言われています。しかし、実際のところはそうではありません。それらの理由が全くないわけではありませんが、実はより大きな理由があります。

債券インデックスと中国国債の関係

 それは、外国債権で運用するファンドの基準になるインデックスの中の中国国債の構成比率が高まったからだと考えられます。
 インデックスとは、日本株で言うところの日経平均やTOPIXのようなものです。アクティブファンドはインデックスを上回るように運用し、パッシブファンドはインデックスと同じように運用します。つまり、インデックスの中の組入比率、中国国債の構成比が上がると、アクティブファンドの多くも保有を増加させるのが一般的です。

FTSE社と中国国債の関係

 外国債権のインデックスとして最も広く使われているのが、イギリスのFTSE社が出している「World Government Bond Index(ワールドガバメントボンドインデックス)」です。
 このインデックスは世界の主要23カ国の国債で構成されており、2021年から中国国債の組み入れが開始されました。2021年の時点ではゼロでした。また、当初は 5.25%までという話でしたが、今では10%程度にまでその構成比が大きくなっています。

インデックスと投資の規模 

 FTSE社の「World Government Bond Index(ワールドガバメントボンドインデックス)」を基準として運用している外国債権のファンドは、世界に少なくとも2兆ドル以上(日本円で約300兆円以上)あると見られています。そのうち10%が中国国債ということは、このインデックスに中国国債が組み入れられたことで、すでに30兆円程度の海外の機関投資家が中国国債を購入しているということになります。金額が非常に大きいため、0.3%構成比率が変わるだけで、9,000億円から1兆円近い金額が中国国債に流れることになります。
 1兆円もの海外の機関投資家が中国国債の保有を増やすと、海外投資家が中国国債を買っていると話題になりますが、これはほとんどがインデックスの構成比率の変動で説明できます。

インデックスの採用企業

 このインデックスを採用しているのはどこなのでしょうか。日本の資産運用会社や年金基金など、多くの会社がこのインデックスを採用しています。日本の国民年金を運用するGPIFもこのインデックスを採用していますが、GPIFは現在のところ中国国債を組み入れていません。中国国債を組み入れるかどうかを公表しているのは、GPIFぐらいだと思います。これは、GPIFが非常に透明性の高い運用をしていると言えます。
 私たちが持っているさまざまな金融商品、投資信託、保険、その他の年金などにおいて、結構な額で中国の国債を持っている形になっているというのは、日本ではあまり知られていない事実です。これは2021年以降に起こっている出来事です。

FTSE社と中国国債の関係

 では、なぜFTSE社はこの「World Government Bond Index(ワールドガバメントボンドインデックス)」の中国国債の構成比率を高めているのでしょうか。これは構成比率のロジックが公表されているわけではないので、不透明な状況です。一応、信用力やその国の国際市場の時価総額、流動性などを総合的に考慮して決定しているとされています。
 FTSE社はロンドン証券取引所グループの参加の企業でこの会社の意思決定にどの程度中国の意向が働いているか、私は存じあげませんが、ロンドン証券取引所グループという会社は上海の取引所と株式の取引をしており、中国とはそれなりに近い関係にあると見られています。
 2010年代から中国人民元の国際化というのが進められてきましたが、それが進むために、この債権インデックスへの中国国債の組入れというのが大きな役割を果たしたことは間違いありません。
 今回、中国国債の発行が増えるので、おそらくまたインデックスの構成比率が増え、それに合わせて海外投資家も中国国債の保有を増やすと予想されます。

私の考え

 この問題については、マスコミや金融関係者も全然誰も言っていないと思います。全然気づいていない可能性があります。私はもう少しこの件について、問題意識を持つべきと考えています。

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