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オンライン診療システムがうまくいかない理由 - 「中国ユニコーン列伝」

おくさまが手術を受けた話

昨年の暮れ、おくさまが病気で手術を受ける機会がありました(もうすっかり元気なので心配は不要です)

ぼくは付添ということで待合室で手術を終えるのを待っていたのですが、ちょうど年末はクソアプリカレンダーの季節で、ぼくもネタサイトを作っている時期だったのです。手術待ちの家族しかいない厳粛な待合室で、ぼくはノートパソコンを開いておちんちんランキングのサイトを作っていたのが、去年の思い出です。

さて、そんなわけで手術を終えたおくさまなのですが、いまだに術後管理ということで手術を受けた大きな病院に定期的に通っています。大きな病院は高度な医療を提供するためのところで、診断書なしに行ったら罰金取られるような管理をしているのだから、そろそろ地元の病院に転院できないのかなと思うのですが、手術したお医者さんとしては、手術後の経過がうまく言ってるかどうか目の前で見れないのはとても不安だし、それなりの時間がかかっちゃうのだろうなというのはなんとなくわかります。

中国の医療シェアリング

さて、「中国ユニコーン列伝」最後の紹介は医療シェアリング。シェアというか普通にIT化のような気もするのですが、院内のカルテ電子化だけが進む日本とは方向性が違って面白いので紹介します。

2006年に創業した好大夫在線(「良い医者はインターネットにいる」)は、もともと医者の口コミサイトでしたが、そこから医師の個人サイト開設プラットフォーム(医師が個人サイトで病気の相談を受けることができる!)、診療科振り分けシステム(症状を入力すると、診療科と近隣の病院を紹介してくれる)、転院予約システムなど、医療に関するサービスを次々にリリースしています。

なかでもぼくが面白いと思ったのは「退院後疾病管理システム」で、これがまさに冒頭で説明したおくさまの状況に当てはまるものです。大きな病気をした患者は、退院後も同じ病院に通って術後管理を行うのが普通です。とはいえ手術後の患者というのは基本的に良くなったから退院しているわけで、健康であることを確認するために病院に通うというのはどうにもやりきれないものです。病院の側からしても、お医者さんのリソースは限られているので、可能ならよりヤバい人に医療リソースを割り当てたほうが効率的というのも事実です。

そこで「退院後疾病管理システム」では、そういった退院後の患者さんが行うことをオンラインで指示できるようにしました。毎週三回の血圧測定とか、階段昇降後の心拍テスト、やっぱり再診にいかないといけない場合のリマインダ…

どれも地味な機能なのですが、こういった機能を提供することで、再診の回数を減らして医療リソースを効率的に回す効果があります。患者さんとしても、遠くにある大病院まで行く回数を減らせるのはとても助かります。これぜひ日本にも欲しいなあと思いました。

オンライン診察プラットフォームの苦戦

医療のシェアリングとしてみんなが夢見るものとして、インターネット越しに診察を受けられないの?というのがあります。これに関しても本で紹介されているのですが、結構苦戦しているようです。

烏鎮インターネット病院では、オンラインで症状を入力することで、簡単な初期診断を行い、診療科を示して近隣の病院の予約を取ることが出来ます。さらに、先に述べた術後管理や、長期慢性の病気に関してオンラインでのフォローアップ診断を提供しています。

ただ、もっと一般的な病気などを遠隔診断するにあたっては、純粋に技術的に難しいということの他に、中国の国内事情もからんできます。

まず、誰がオンライン診療を提供するのかという問題です。中国の病院は一級二級三級と格付けがされていて、一級がいわゆる町医者、三級が大学病院クラスです。日本と同じで、むやみに三級の病院に行くと余分にお金がかかる仕組みがあるのですが、そのへんがうまく機能していないらしく、みんな三級の病院にかかりたがります。

すべての医者が医大を出ていることが保証されている日本と違って、医大を出なくても医者を名乗れて、それまじない師じゃないの?みたいな医者もいる中国では、どうでもいい医者は余ってるのですが、みんなが見てほしい、三級の病院にいるような医者は大忙しで、オンライン診療なんて見ている暇はないのです。

さらに、診療報酬の問題があります。中国の医療費は、歴史的理由により診察費用がとても安く、医薬品を高く売った売上で病院の経営が支えられているという構造です。この構造をそのままに、オンラインで医療を提供してしまうとどうなるでしょう?オンラインで診察して、処方箋を持っていって近隣の薬局で薬を買われてしまうと、診察する方は商売になりません。それでなくともオンライン化するためのコストを誰が負担するかという問題があるのに、オンライン医療はどうやって儲けるのかという問題があるのです。

まとめ

日本よりずっとIT化が進んでいると言われて、なんでもアグレッシブにやってしてしまうイメージのある中国ですが、医療に関しては常識的な範疇に収まるようで、なるほど人間、命に関わることに関してはやっぱり無茶が出来ないんだなあと思いました。

ということで、二週間弱に渡って書き続けてきた、「中国ユニコーン列伝―シェアリングエコノミーの盛衰」の紹介もこれが最後です。

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ではまた、次の機会におあいしましょう!

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