見出し画像

分類別古単no.44:「さ」の連語

44■「さ」の連語

受験生のための単語リストです。
ここでは「さ」と「さ」の連語を集めてみました。
全体の50音索引はこちらへ

■次の語の意味をA→Bで確認!

A 単語リスト

「さ」は重要だが、複雑で多岐にわたってしまう。特に、助詞助動詞の知識が必要な2のB、直訳からは推測できない2のCには注意が必要だろう。

・■単体としての「さ」
→さ・しか

・■連語で用いられる「さ」
A・素直に直訳できるもの
1・さること
2・さらぬ
3・さりけり
4・さるほどに
5・さは言へど
B・助詞・助動詞との組み合わせ
6・さりとも
7・されども
8・さらば
9・されば
10・さながら
11・さらでだに
12・さばかり
13・さのみ
14・さのみやは
C・直訳からは推測できない、単語として記憶したい語
15・さればよ
16・さればこそ
17・さるべき
18・さるべきにや
19・させる
20・さはれ
21・さもあらばあれ
22・さるは
23・さらぬ顔

B 語義と語感

長い説明になってしまう。ご容赦いただきたい。ここでは、例文の演習は示さず、必要のあるときは説明の中に例文を挿入した。

単体としての「さ」
は漢字で書くと「然」。そう・そのようという意味を持つ指示の副詞。さようならは、本来は「さやうならば」。用事がすんで「そうであるならばお別れしよう」ということ。漢文脈では「然」は「しか」と読まれる。「しかれども」は「そうであるけれども」であり、意味は「さ」と変わらない。ちなみに、似た言葉に「かく」という副詞があり、こう・このようと訳される。「人生はかく生きるべきだ」と言えば誰でもわかる。
さ・しか・かく」はともに指示する内容を持つため、入試ではその指示する内容が問われるケースが多い。「さ・しか・かく」に出会ったら、何を指示しているか考える習慣を持つことが大切である。

連語で用いられる「さ」
ことば単体の意味としてはそれでいいが、とにかく一字しかない小さい単語なので連語、複合語として登場することが多い。これが鬱陶しい。名詞、助詞、助動詞・・様々なものに接続、「」がラ変「あり」と結びつき、「さあり」が圧縮され、「さり・さる」となっている形も頻繁に登場する。ちなみに「かかる」も「かくある」の圧縮形である。

★A:簡単な例から行こう。まず、素直に直訳すればいいもの。

1・さること=そのようなこと
2・さらぬ者=そうでない者
3・さりけり(※「けり」詠嘆)=そうであるのだなあ
4・さるほどに=そうしているうちに
5・さは言へど=そうは言っても

★B1:次に助詞と組み合わされ、その助詞の意味用法を押さえることが大切な連語。

6・さりとも・7・されども
→「とも・ども」が逆接確定条件を表す接助=そうであるとしても
8・さらば
→「ば」が順接仮定条件=そうであるなら
9・されば
→「ば」は順接確定条件=そうであるので

★B2:助詞・助動詞との組み合わせ。ちょっとレベルをあげよう。

10・さながら
=そのまま・全部
■→「さ」に接続助詞「ながら」が付いたものであるので、「ながら」の逆接・~のまま・全部という意味用法を生かす。特に後二者(逆接・打消を伴った強い否定もあるが)。「花のさながら変はらずに咲くを見るに」であれば、桜が昔のまま咲いているのを見るとという意味、「七珍万宝さながら灰燼となりにき」であれば、多くの珍しい宝が全部灰になってしまったという意味を取る。

11・さらでだに
=そうでなくてさえ
■→一見分かりにくそうだが助詞の用法をつかんでいれば直訳できる。「」は打消の接続助詞、「だに」が類推の副助詞であることを押さえれば、そうでなくてさえという意味が取れる。

12・さばかり
=あれほど・その程度の
■→簡単そうでいてちょっと難しい。「ばかり」が程度・限定を表す副助詞であることから「それほど・それだけ」という直訳をまず押さえたい。その上でこの語のニュアンスを「」を限定的に強めた語であるとイメージしてみたい。特に「鶯はさばかりあてにうつくしきほどよりは、九重のうちに鳴かぬぞいとわろき」のように、「あれほど上品で愛らしい割に宮中で鳴かないのがたいそうよくない」と強める場合、「この殿の御心、さばかりにこそ。」のように「この殿のお心はその程度のものでいらっしゃったのだ」とマイナスのニュアンスを帯びる二つの意味が大切。「かばかり」も同じ。

13・さのみ
14・さのみやは

=そのようにばかり・そんなにも
■→「さのみ」も「さばかり」と似ている。「のみ」が強意・限定を表す副助詞であることから「そんなにも・それほど・そのようにばかり・そうとだけ」という直訳でまず押さえたい。その上で、この語のニュアンスを「」を限定的に強めたものとイメージしたい。「やは」がつけば反語である。「よき人は知りたることとて、さのみ知り顔にやは言ふ」であれば、「身分の高い教養のある人は、そんなに知ったかぶりに言うだろうか、いや言わない」という意味である。

★C:直訳からは判断が困難な連語の一群がありこれは覚える必要がある。

15・さればよ
16・さればこそ

=思った通りだ・やっぱりだ
■→例えば『蜻蛉日記』で夫の兼家が夕方、宮中に用事を思い出したと言って出かけたのを女の家に行くのだろうと予測した道綱母が召使に後を付けさせて、女の家に入ったと報告を受けた時、「さればよ」と思う場面がある。

17・さるべき
18・さるべきにや
①そうなるのが当然の・適当な
②しかるべき立派な
③そうなるはずの前世での因縁があったのだろうか
■→①「さるべき」は(さりぬべき・しかるべき)は「さあるべき」であり「べし」の基本の意味が当然であることを考えれば「そうなるはずの・そうするのが当然な」という直訳ができる。あるいは「べし」を適当の意味に取れば「適当な・相応な」の意味になる。例えば「成りのぼれども、もとよりさるべき筋ならねば」であれば、「高い地位に出世してももともとふさわしい血筋でない人は」という意味になる。
②それと同時に「先生はさるべき人にて」などという使われ方もある。先生は「相当な身分の立派な」人だという意味になる。この①②の用法は「さる」でも同じである。
③もう一つ大事な用法。「さるべき・さるべきにや(あらむ・ありけむ)」には、「そうなるはずの前世からの因縁があったからであろうか」という意味で使われるケースがあり入試で狙われやすい。例えば「高い地位に出世してももともとふさわしい血筋でない人はかく覚えなくてめぐりおはしたるもさるべき契りあるにや、と思しながら」は「このように思いがけずめぐり会いなさったのも、そうなるはずの前世からの因縁があるのだろうかと、お思いになりながら」という意味を取る。

19・させる
=たいした
■→これは例えば、絵仏師良秀が自分の家の燃え盛る炎を見て周囲の人たちが心配してくれるのに対し、薄笑いを浮かべて「わたうたち(お前さんたち)こそ、させる能もおはせねば(たいした能もおありにならないので)物をも惜しみ給へ」という場面があるが、このように多くは下に打消の語を伴い「たいした」という意味である。

20・さはれ
21・さもあらばあれ

=どうとでもなれ
■→命令形の放任法というもの。例えば公任への返歌に悩む清少納言の心情「遅くさへあらむは、いととり所なければ、さはれとて」は「返歌が下手なうえに遅くまであったとしたら、全くいいところがないのでどうとでもなれと思って」という具合になる。「さもあらばあれ」も同じ。

22・さるは
①そうであるのは・それというのも
②そうではあるが
■→接続詞として、順接、逆接、その他「そのうえ」などの接続があるので、文脈に注意する。
①順接:そうであるのは・それというのも実は
例文:「さるは、限りなう心を尽くしきこゆる人にいとよう似たてまつれるが、まもらるるなりけり」
解釈=というのは、限りなく慕い申し上げている方にたいそうよく似申し上げていることが自然と見つめる理由なのだ。
②逆接:そうではあるが・そうはいうものの
例文:「ただ文字一つに、あやしう、あてにもいやしうもなるは、いかなるにかあらむ。さるは、かう思ふ人、ことにすぐれてもあらじかし」
解釈=ただ言葉一つで不思議なことに上品にも下品にもなるのはどういうわけなのだろう。しかしながら、このように思う人自身が特に優れているわけでもあるまいよ。

23・さらぬ顔
=何でもない様子
■→例えば「さらぬ顔にもてなしたれど」という文脈に従えば「平気、何でもない様子」という意味の類推は難しくない。ただこうした内面と外面の食い違いの表現は「もてなす」という語とともに大事。外面と内面の食い違いと言えば「つれなし」という語をぱっと思い起こしたい。

★蛇足かもしれないが大事なことを補足した。「さる」はひらがなで書かれるため、「然る」ではなく、「去る」「避る」であるケースもあることに注意。例えば■「さらぬ別れ」は重要単語だが、これは「避らぬ別れ」であり、避けられない別れ=死別を表している。また■「さりがたきほだし」は「去り難き絆」であり、捨て去れない係累を意味している。
ほかにもいろいろな「さ」の連語がある。またここにあげた語にも他の意味がある。すべて紹介できない。最後は文脈を読もう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?