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狸の末路

散歩の途中で、古道具屋さんを見つけた。店のまわりにはいろんなタイプの絵が並べられている。わたしは足を止めて、何か掘り出し物はないかと物色した。犬の形をした陶器のボトルがあって、花瓶にしてもいいなと考えていると、女主人がまあまあの大きさの狸の置物を抱えて店のなかから出てきて、それらの絵の横に置いた。

すると、ちょうど自転車でその店の前を通り過ぎようとしたおっちゃんが急停車し、「その狸いくら?」と訊く。女主人は「千円よ」と返す。それを聞いたおっちゃんは、「買うわ。お金とってくるからちょっと待ってて」といって、颯爽と走り去っていった。このあたりの人らしい。

わたしはどんな狸を買うつもりなんや、と興味がわいて、狸を拝みにいった(さっきはちらっとしか見れなかった)。それは居酒屋の前においてありそうな狸で、古くて割れているところもあったがなかなか風情があった。あのおっちゃんはこれを買うのか、とひとりで納得し、わたしは犬のボトルをあきらめて、トレイやカレー皿っぽいものを買って店をあとにした。

カレー皿に使えそうじゃないですか?

しめて600円だったこともあり、満足して店を出て、そのあと味噌屋に立ち寄った。味噌屋の店主から酒精のあるなしの違いについて教えてもらい、ふむふむと思いながらないものを購入した。味噌も600円。

味噌屋さん

でまぁ、きた道を戻ると、さっきのおっちゃんがいた。自転車のカゴには、あの狸。大きくてカゴに入りきれていない。きっと、「袋はいらねぇよ」とかいったんじゃなかろうか。カゴのなかの狸はぼろだけど、なかなかいい感じだった。なんとなく面白いので、写真をとらせてほしかったが、それはいえないなぁと思いなおし、目にその光景を焼き付けながら、横を通り過ぎた。

「狸は縁起がいいからなぁ」とおっちゃんの爽やかな声が青空にまで届いていた。わたしは背中を向けたまま、おっちゃんよかったね、と思った。

その時だった。事件が起きたのは。ガシャーンという大きな音がして思わず振り返ると、狸が粉々に砕け散っていた。

わたしはそのあとの会話を聞きたくなくて、足早に立ち去った。その反面、謎に、あの砕け散った狸を最後の姿として写真におさめたいという、いらぬジャーナリスト精神がわいていたが、やめといた。(ちなみにサムネイルの狸は、尾道にいた狸たちです。写真がないので出演してもらいました)

あの狸はところどころ割れていたし、色もはげていたし、ぼろではあったので、たぶんこれまでいろいろあったんだと思う。もう少しで終の住処にたどりついたかもしれなかったのにな。狸は、割れた瞬間何を思ったろう。

今晩は味噌鍋。狸色の鍋。



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