[ショートショート] まっさら

 進路希望に悩む高校生がいた。どこにでもありそうな話だ。
 同じクラスの友人も言う。
「未来のことなんてわからないよな」
 本当にそう思った彼は担任に進路希望書を出さないでいた。
 締め切りの日が来て、朝のホームルームの時間に教師が言った。
「おい、どうなっている。誰も進路希望書を提出してないぞ。お前ら示し合わせて出してないんじゃないだろうなぁ」
 生徒たちは互いに目を丸くして顔を見合わせた。生徒の一人が言った。
「そんなことしてません。本当になにも思いつかなくて…」
 当日中に進路希望を提出しないと部活に行かせないし家にも帰さないぞ、と教師は横暴なことを言ったので休み時間はみんな躍起になった。
 それでも誰も放課後になっても提出できなかった。
「何故だろう。どうしてこんなにも将来のことがわからないんだろう」
 クラスメイトたちの机に置かれた進路希望書はどれもまっさらなままだった。

 とある国で有名な占星術者がいた。
 彼女は過去に予言で度々国王の危機を救い、あるいは住民の命を助け、ときには自らに降りかかる災いすらも自らの術で退けてきた。
 国中から尊敬され、王政府からの信頼も厚い彼女は自らの死期を悟ると一昼夜、一心不乱に書物を記した。
 ようやく書き終えてベッドの上で横たわる彼女の下に王らがやって来た。
 深い思慕の挨拶と励ましの言葉の上、机に置かれた書物に王は目をやった。
 老いさらばえた占星術者は内容をよく吟味し、国をよく守り、民を栄えさせ、来たる時に備えるようにと王に言い聞かせた。
 王が中身を見るとこの先に起こる様々の出来事が記されてあった。内戦、感染症、核兵器、飢餓…。最後のページをめくった時、そこにはなにも記されていなかった。
「これはどういうことですか。続きはないのですか?
 老婆はこう言って息絶えた。
「そこで終わりじゃ」
 

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