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[怪談] 夜の写真撮影会

 これは僕の兄貴から聞いた話なんだけどね。
 兄貴は大学生の時に一夏だけ写真サークルに入っていたんだ。
 それまで写真に興味なんてなさそうだったのに、ある夜に学友の軽自動車が迎えに来て出かけていった。
 実は兄貴は仲間内四人で近くにある心霊スポットで写真を撮り、うまいこと何かが写っていたら夏の心霊特番に応募しようと考えていたらしい。
 四人はコンビニで飲み物なんかを買い込み、夜のドライブに繰り出した。
 僕の住む街の周囲には一、二時間も走らせれば色々と曰く付きの建物や公園、トンネルがあった。
 しかし、各々のデジカメやスマホで写真を撮っても特におかしなものは写ってなかった。四人は次第にしらけてきた。
 そうこうしてるうちに最後の心霊スポットの廃病院にやってきた。本当は入ってはいけないのだが、四人はすっかり恐怖心も麻痺してしまっていて柵を無理やり乗り越えて敷地へと入っていった。
 病院内は流石になかなかの雰囲気があって、それはそれで怖かったらしい。だがそれでも特になにも起こらず、互いに突然を声を上げて驚かせたりしてふざけ合っていた。
 が、兄貴がふと自分のスマホをどこかに落としたことに気がついた。
「おいおい、まじかよ」
 さすがに夜の廃墟同然の病院内を探し回るのは骨が折れる。一応来た道を戻ってみたが見当たらない、諦めかけたその時、ふと柵を乗り越えた時に落としたのではないかとひらめいたそうだ。
 果たして、柵の下に画面が上を向いた状態でスマホが落ちていた。
「よかったぁ…」
 兄貴が手に取り、振り向きざまに後ろを追いかけてきていた仲間を撮影した。
 帰りの車の中で念のため、撮影済みの写真に何か写っていないか確認することにした。
 すると、兄貴のスマホに覚えのない写真があった。
 それは四人全員が病院へと入っていく後ろ姿の写真だった。
 兄貴は最初、それを他の三人の誰かの悪戯ではないかと疑った。だが、そうなると誰かが兄貴のスマホを盗み取り、なんらかの方法で宙に構えた状態でタイマーをセットして一緒に素知らぬ顔で病院に向かわなくてはならない。
 しかし、どうやってもそれは無理なように思われた。
 第一、スマホをどうやって宙に固定していたのか。固定していたとして、三脚などの道具はなかった。また、自分に気づかれずにそのような道具を回収するタイミングは存在しなかった。
 となると、あの場には四人以外の別の何者かがいたということになる。
 それに気がついた途端、四人は異常な寒気を覚えて車に乗り込んだ。運転手は法定速度を無視して街中へ向けてひた走った。
 道中は誰も喋らず、訳もなく後ろを振り返ったりしていた。

 ようやくコンビニの光が見えてくると、誰ともなく笑い出した。

「おいおい、ふざけんじゃねーぞ」

「誰だよ、変な悪戯はやめろよな」

 一同は安心感から勝手なことを言い合いながら駐車場で車を降りた。妙に風が生暖かく、それは不思議と寒気がしていた肌に優しく感じたという。
 一息ついていると、友人の一人がふと「あっ」と声を上げた。
 目を丸くして、自分たちの乗っていた車のリアガラスを指差している。
 最初は兄貴を含めた他の三人は意味がわからなかったが、目を凝らしてよく見ると砂埃で汚れたガラスに小さな文字が微かに書かれていた。
「しゃしん とっておいたよ」
 気がついた途端、それが何を意味しているのか理解し、車の持ち主だった友人は腰を抜かしてその場に崩れ落ち、他の二人も涙目で「やべぇってこれ」と無意味に呟いていたという。

 それから四人はファミレスで夜を明かしたけど、特にそれきりで何もおかしなことは起こらなかったらしい。
 一方、兄貴は確かにその時は怖かったものの、心霊番組に投稿できるような写真じゃないって残念そうだったよ。

 それから兄貴はどうにも悔いが残るらしくて今でも一人で夜中に何処かに出かけてきては写真を撮ってくる。

 僕からしてみると、そんな奇妙な体験をしておきながら心霊スポット巡りをやめない兄貴は何かに取り憑かれているんじゃないかってくらい恐ろしく感じる。

 昨晩、兄貴が出かけてから丸一日経つのに連絡がつかない。

 ふと、兄貴の部屋を見に行くと机の上にスマホが画面を上にしたままの状態で置きっぱなしになっていた。

 どうりで連絡がつかない訳だ。僕は理由がわかって少し安心した。

 

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