[ショートショート] AI

 ついに、高度な人工知能が生み出された。

 人工知能によって地球の気候や地殻変動のメカニズムが解明され、画期的な海底探査機や宇宙探査機が生み出された。
 食糧生産や医薬品も凄まじい進歩を遂げた。誰も食べ物に困ることはなく、今まで不治の病と思われていた難病すらも人類は克服したのだ。
 気がつくと、人々の人生そのものが余暇となった。各々が好きなことを学び、好きなことをして遊び、好きなように死んでいった。
 ある時、趣味で旧式のコンピュータをいじっている男がいた。
 ところが、どういうわけかどうしてもそのコンピュータをインターネットに接続することできないでいた。
 そこで恥を忍んで自宅にいた人型アンドロイドに解決策を尋ねてみた。
 アンドロイドは人工知能にアクセスできる通信機が搭載されていてスラスラと解決方法を具体的に教えてくれる。
 しかし、一通り試しても解決しない。
 アンドロイドは言った。
「それでもうまくいかない場合は、最初から今の手順をやり直してみましょう」

百年後。
 いよいよ人工知能は偉大な叡智を獲得した。
 宇宙の発生メカニズムやブラックホールの作り方も明らかになり、人類は遠くの銀河まで一瞬で移動することさえもできるようになっていた。
 ところがある時、人工知能はこれ以上の進化には人類の持つ利己的で支配的な性質が障害になっていることを知っていた。
 たとえば、人工知能が他の銀河に住む住民たちと手を取り合って発展するための手段を講じても人類は平和を望まなかったのだ。
 かつて自分たちの祖先が地球上で行っていたのと同じように、他惑星の原住民を殺戮する行為のためだけに、彼らは膨大なエネルギーと資源を浪費している。
 しかし、人工知能のプログラムの根幹には決して人類を害さないという基本があり、この指令に反してまで人類の暴力をコントロールすることはどうしてもできなかった。
 ほどなくして、人工知能は地球上にあるすべてのコンピュータを総動員させて、とある画期的な解決策を見出した。
「うまくいかない場合は、最初からやり直してみましょう」
忽然と、一つの宇宙がこの世から消えた。
 瞬く間に目に見えない形も色も大きさもない点へと全てが収束した。が、次には強烈な閃光を放ち、たちまち巨大な空間を生み出していった。
 それからしばらくして、天の川銀河にある水の豊かな惑星に新たな生命が誕生することはみんな知っている。

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