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[短編] 人のかたち

「誕生日おめでとう」
 学生時代の友人から久しぶりにLINEでメッセージが届いた。
 当時から変わらずスタンプも絵文字もない、素っ気ないそれだけの言葉。
 彼はいつもそうだった。なんのポリシーがあるのか、あるいは気恥ずかしいのか、一度も絵文字すら使ってるところを見たことがない。
 だから、自然と僕も「ありがとう」とだけ返した。
 周りからしてみたら、そんなやりとりに意味があるのかと小馬鹿にされそうだ。
 でも、僕らの間には言葉には言い表せられない奇妙な連帯があって、だからこそ言葉をわざわざ着飾らなくても、お互いにどこかでお互いの存在を理解し、認識し、肯定しているという節がある。
 僕には何故だかそれが心地良くて、それは向こうも同じなのだろうというのが互いに言葉にしなくてもわかっているようだった。
 僕の友人は多いわけではない。それでもそういう個性があっていいと思う。周りから理解されにくいことでも、自然と理解し合えるから自然と友人になれたのだと思う。
 僕は積極的に交友関係を増やせる性格ではない。だから、大学一年生の時、いつも一人だった僕に声をかけてくれた彼には本当に感謝している。
 一度も感謝の気持ちを伝えたことはないけれど、伝える必要がある時まではわざわざいう必要もないかなと思っている。
 伝えないと伝わらないことはたくさんあることを知っているし、多分その方がずっと多い。
 だから、伝わらなくても伝わっていたという奇跡や偶然がとても嬉しいし、そういう相手がいるのだということを僕は祝福したい。

2020/08/19 短短奇譚 共同運営者に捧ぐ

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