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デザイナーではない人たちが、本のデザインをすること。

こんにちは。もぐら会のさきこです。
5月20日に予約開始した『もぐらの鉱物採集 2020.01.22~2020.03.29 あの人今、泣こうとしたのかな』(通称“もぐら本”)。初日から予想をはるかに上回る予約をいただいており、制作チーム一同うれしい悲鳴をあげております。本当にありがとうございます。手にした人が、どのような気持ちで袋とじを開き、どのような物語に出会うのか。その十人十色の瞬間を想像するだけで胸が高鳴ります。重版未定・残部僅少となっておりますので、気になる方はお早めにご予約をお願いいたします。


さて、今回はもぐら本のデザインについてお話したいと思います。

デザイナー不在!? 本当にできるの? もぐら本

もぐら本制作チームは計8名。それぞれが得意分野を持っています(詳しくはこちらを参照)。それぞれができること・スキルを提供し、できないことは補いながら作りました。もぐら本の表紙のデザインもそのひとつ。

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もぐら本の仕様は、このプロジェクトがスタートした初期の段階で決まっていました。執筆者ひとりひとりの原稿を袋とじにする。その仕様を具現化すべく、かんちゃんが印刷所探しに奔走してくれました。幸いこの仕様をおもしろがってくれる印刷所が見つかり、妄想が具現化できる目処がたったのです。
ただ、35編が袋とじという特殊な仕様なので、当然印刷・製本にコストがかかります。仕様を優先したので紙にもそれほどこだわることもできませんでしたし、印刷も白黒2色という指定が入りました。せめて表紙だけでもデザイナーさんにお願いしたいという希望は一同持っていましたが、原価率がとても高い本なのでそれを叶えることも難しそう。だったら、自分たちでやるしかない。それが現状でした。

どうやったのか

デザイナー不在の中デザインをしなければならないという難題にぶち当たりましたが、全ページ袋とじという唯一無二の愛おしい仕様は実現できる目処が立っています。著名な執筆者が名を連ねている本でもなければバズが起きるような内容の本でもないけれど、日常に潜む愛おしい感情の断片の集積をまとめれば、それだけですばらしいものになることは容易に想像ができました。それらを包み込む表回りのデザインはできる限りシンプルでいいのではないか、表紙に無理やり装飾を施して色をつけてしまうことに違和感があるという意見は全員が一致しました。シンプルが一番難しいことも重々理解しているつもりですが、デザイン制作に関しては素人の集まりなので決して背伸びせず、自分たちのできる範囲で込められた思いを具現化しよう。そう思っていました。

まずは試しにみんなで表紙案を作ってみることにしました。それをとっかかりとしてオンラインでの打ち合わせで詰めていこうということになったのです。

リアルタイムで表紙修正

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オンラインでの打ち合わせ当日。
画面共有で表紙案をみんなで見ていくと、それぞれが楽しんで作っていることがわかるすばらしい案ばかり。主宰である紫原さんが意見をまとめながら、フォントやバランスなどを考慮して最終的にベースとなる一案が選ばれました。
それがこれ。

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この案は私がざっと作ったものなのですが、イメージとしては文庫本の表紙。フォーマットが決まっていて、どのような内容でもフィットするもの。仕事などで直線的な成長が注目を集める社会の中で、円環的な関係性を尊重するもぐら会らしく丸みを帯びたやわらかさを感じるもの。スキル不足で文庫本の表紙のような美しさを出すことは叶いませんが、そのようなイメージを持っていました。

ただ、なんとなくまとまりすぎていて引っ掛かりがない。ブレイクスルーするためにはどうしたらいいのかをそれぞれが考え、発言していきます。ただ、結論が出なさそうな匂いもしていたので、ZOOMの画面共有を使ってリアルタイムで修正していく提案をしたのです。

いろいろ意見が出る中で、誰かの「円を手描きっぽくしてもいいんじゃないかな」という言葉がひっかかりました。確かに、もぐら会はみんなそれぞれぼこぼこしているけれど、それが泥臭くて温かくて居心地がいいのです。手描きの円はもぐら会らしいし、手描きだといいかもしれないなということは頭の片隅にあったので、早速試してみることに。とりあえず、Illustratorのツールを使い適当に円を描いてみると、石のようにゴツゴツした表情の円になりました。円が出来上がった瞬間、「これ、いいね!」とみんなが口々に言ったことを覚えています。その後、みんなで手描きの円のパターンを出し合いました(どれもとてもよかったのです)が、最初のものがなんだか愛おしくて、そのまま採用になったのです。

その後、手書きの円文字の配置などを調整していると、なんだか人の顔のように見えてきたのです。性別も名前もない、誰かのふとしたときの顔。思い切って、顔に見えるように配置を調整していきました。


不完全で愛おしい。もぐら本表紙の完成!

そして出来上がったのがこの表紙です。正確には、その後細かい調整もしたのですが、大枠はオンラインでの打ち合わせ内で決まりました。正味2〜3時間ほど。それぞれがそれぞれの意見を持つ中ですっと決まったのは、度重なる話し合いで方向性やイメージを共有できていたことが大きいかと思います。表紙ができるまでの過程やダイナミズムを制作チーム全員で共有できたことは、入稿までのひとつの栄養ドリンク的な効果もあったような気がします。

薄い本なので背が少し版ずれしていたりもしますが、完璧ではない不完全な愛おしさというのは、まさしくもぐら会やその中にいる人たちそのもののような気がしています。仕様もデザインも、制作チームみんなで作り上げたもの。まだ知らない誰かに愛されれば、とてもうれしいです。


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