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そこにいないが、いなくならない。

人生で初めての体験をした。

それは「2週間ほどの間に3人の遺体に対面する」という内容で、めでたくはない。その内訳は妻の祖母、実父、会社の同僚(隣の席)となっていて、しかも会社の同僚は自宅で倒れているのを自分が発見するという形であった。

妻の祖母は100歳近くの大往生であり、ずっと介護施設にいたためコロナ禍でもありずっと面会できていなかった。突然の訃報を受けて妻の実家に帰省し、遺体と対面して翌朝、入院していた父親が危篤との電話を受けた。駆け付けたもののその日に亡くなってしまい、そこから1週間ほど忌引き休みをとり出社。するといつも早い出社の同僚がいない。早出でどこか遠くにでも出ているのかな?と思っているとみんなが連絡が取れないといっているので、嫌な予感がしてアパートへ向かった。年上だが独身の一人暮らしで、しかも持病がある。そのわりに元気でよく動く人であり、酒も非常によく飲むので「飲みすぎての寝坊とかだったらいいが…」と思いながらチャイムを鳴らす。2度鳴らし、無反応だったため一応ドアノブをつかむと、するりと回りドアが開いた。

次の瞬間目に飛び込んできたのは玄関先で倒れている同僚の姿だった。名前を呼ぶが無反応。体をゆすろうとして、固さに慄く。首筋に手をやり、父の時に味わった冷たさを感じる。やばい、やばい、やばいと頭の中で警鐘が鳴る。だが素人判断はいけない。急いで119へかけると、住所を聞かれ、心臓マッサージを促される。そうだ、何かしないと。何でもいいから何かしないと。もし心臓マッサージをして少しでも反応があれば望みがあるのかもしれない。呼びかけながら胸を強く圧迫する。

おそらく救急車が到着するまで10分以内だったと思う。が、救急隊員の反応が静かだったので一気に絶望感が襲う。一応AEDなどもセットしていたが反応はなく、やっぱりね、という感じでいろいろな処理をしていく。自分は名前や関係性などを聞かれて知る限りの情報を答えていった。会社にも連絡し、代表がきたのだが来たところで特にすることもなく、連絡先などを教えたあとは現場処理のためひたすら外で待機していた。

その時に代表が「これって労災?労働基準監督署こないよね?」みたいな心配をしていたのでそんなこと考えてる場合かよと怒りが沸いた。

結局その日は遺体を搬送した後は帰っていい、となり仕事に戻った。唯一の遺族が県外から明日来るとのことで、翌日は来れる人間が遺体とのお別れを済ませた。火葬が終わったあとでやってきたのは膨大な量の引継ぎをどうするかの問題。

知識がある上に技術も技術も持った稀有な人だったため、かかわっている案件量がすごく多く、それを紐解く作業だけでふらふらになった。幸い記録を細かくつけている人だったので実作業を担当していた人間などと打合せしながらある程度解析できた。自分は隣の席ということもありよく一緒に食事をしたり話をしていたので、非常に寂しい思いが強かったが同時にその仕事量に驚いてもいた。よくこんな同時に抱えてたなぁ…と。引き継ぐ作業を掘り返している中、途中で何度も「本人に電話して聞きたい」と思った。もし繋がったとしたら「まあ何とかなりますよ」と言うだろうな、いつもみたく。そういって軽く引き受けては片づけてしまう人だった。

お世話になった人なのでできる限り自分が引き継いでやりたいとは思ったが、そもそもの知識や技術ベースが違うのでやりたくても無理なものも多い。何より自分の仕事+引継ぎ全部とか明らかにパンクする。可能な限り現在動いている仕事をまとめて代表に提出。というかそもそも他の人間も交えて打合せするべきではないかと思ったがとりあえずリスト持ってこいというので見せると一言。

「これ全部引き取れない?」

「それができるんだったら相談してませんよ」

条件反射的にキツイ言葉が出てしまった。ほんと何も考えてねーなぁ…。まあ他の人間に自分から話をするのが面倒でイヤなんだろうな。結局6割ほど引き取ってやることにはしたが地味に時間がかかりそうなものを他の人に回せたのでよかった。というか引き取った端から仕事量というより死去後や引き継ぎ時の対応のせいで辞めたくはなっているのだが…。

それにしても仕事の痕跡を見るたびに同僚の動きが見える。感心もするし、寂しさも増す。父親の不在に慣れかけたところでだったからなぁ、これはしばらく大変そうだ。


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