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バンコクマダム連載コラム『タイ生活』より  第1話・・・「バナナ」

 タイ人の夫とバナナを食べている時に「なんだか変だぞ」という気配をいつも感じていた。
バナナの皮を剥く夫の手元を何気なく見ていてつい笑っちゃう。
「キャハハハ。何、そのバナナの剥き方。反対やん。
ちゃんと柄の方から剥いて」
私は、バナナが房になっている時に他のバナナと繋がっている柄のある方を「上」と思っていていつもそちらから皮を剥いている。
そして、世界中の人が、バナナを柄のある「上」から剝いていると信じて疑わなかった。
なのに夫は、その逆の「下」から剥いているのだ。
しかも「僕の育った村ではみんなこっちから剥く」らしい
・・・そんなアホな。
「ウソや~。ははは。そんな変な剥き方する人、きっと世界で一人だけに決まってるわ」と笑い飛ばしてその時はその話題に幕を閉じた。


しかし、それからバナナの皮の剥き方がとても気になりだした。
道端の焼きバナナ屋さんでおじさんがバナナの皮を剥くのを見ていると、
柄は房に付いたままのバナナの皮をサッとナイフで切り裂いて実を取り出している。
一房のバナナの実を取り出すのもアッという間で実にお見事。
中身を取り出した後の房になったままのバナナの皮は使い古した野球のグローブみたいで皮がバラバラに散らばることもなく、成程賢いやり方だと感心する。
しかし、今食べようとするバナナを手で剥くときはどうよ・・・


そんなある日、ガソリンスタンドで給油してもらっている時に絶妙のタイミングに遭遇した。
暇そうな従業員の一人が今まさにバナナを食べようと一本手に取ったのだ。
思わず密かに緊張し、彼の手元に視線を集中させる。
そんなことは露とも知らない彼は超リラックス状態で無造作にバナナを剥き始めた。


「あっ!!」

彼は、何てことなしにバナナの皮を「下」の方から、
つまり夫と同じように「変な剥き方」で皮を剥き、
パクッと食べてしまった。

ああ、夫のほかにもバナナを「下」から剥く人がいたんだ・・・・
と驚き可笑しくなった。
夫の村の人たちは、みんなバナナを「下」から剥く、というのは本当なのかもしれない。


後々色んな人に尋ねてみると、タイでは「下」からバナナの皮を剥く人が多いらしい。
たかがバナナの皮の剥き方、されどバナナの皮の剥き方。
ところ変わればだなぁ、と興味深く思った。




お読みいただきありがとうございます。
これは、タイのフリーペーパー『バンコクマダム』に2013年から連載させてもらっているコラムをちょこっと編集し、まとめておきたくて書き留めています。



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