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京都アニメーション放火殺人事件:最終弁論

◉これで公判は結審し、来年2024年1月25日には、判決が言い渡されるとのこと。2019年7月18日に京都アニメーション放火殺人事件が発生して、けっきょく4年半かかりました。放火した犯人も、火傷で瀕死の重傷を追ったためですが。

【弁護側「絞首刑は残虐」と死刑回避求める、動物愛護法に言及も】産経新聞

 36人が死亡、32人が重軽傷を負った令和元年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人罪などに問われた青葉真司被告(45)の京都地裁の裁判員裁判で7日、検察側の論告求刑に続いて弁護側が最終弁論を行い、精神障害により刑事責任能力がなかったか、あったとしても限定的だったとして死刑回避を求めた。

 裁判長から最後に意見がないか問われた青葉被告は「被告人質問で答えることをちゃんとしてきたので、付け加えることはない」と述べた。

https://www.sankei.com/article/20231207-EP4AP2QKRVKGPBUWYRFVZYIA7Y/

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、京アニファンの方のイラストです。

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■判決は来年の1月■

犯人自身の、身勝手な主張には呆れましたが。裁判前に漏れてきた情報自体を聞く限りでは、自分が仕出かしたことが、こんな大事件になるとは思っておらず。医者や看護師には死にたいという言葉を、漏らしていたようですから。本人としては、ちょっと驚かすつもりぐらいだったのでしょうけれど。ガソリンの燃焼力を想像できなかったのでしょう。

ただこれは、自分の個人的な感想でしかないのですが。たぶん犯人は、死刑判決は回避できないでしょうし、犯人も控訴しないような気がします。死刑判決が出るような裁判では、最高裁まで争うのが一般的なのですが。附属池田小事件の犯人は、2003年8月28日の大阪地裁の死刑判決に対して、弁護士の上告を自分で取り下げ、翌2004年8月14日に死刑執行。稀に見るスピード執行でした。

36人もの死者と、32人の重軽傷者。放火という手段ではありましたが、単独犯による死者の数としては、戦前の津山三十人殺しを上回る大事件。なんと言っても、オウム真理教の一連の犯罪による死者の数を、上回ってしまっているのですから。オウム真理教は教祖以下、189人が起訴され、13人の死刑判決と5人の無期懲役判決が確定し、執行されました。

■復讐法と等価報復■

日本の現在の刑法を含む近代法のルーツは、ハンムラビ法典にあるのですが。「目には目を、歯には歯を」の言葉で知られるハンムラビ法典は復讐法と呼ばれ、加害者が被害者に与えた損害と、等価の罰を与えるという考え方です。これをタリオの法と呼びます。オウム真理教の事件では坂本弁護士一家をはじめ29人が死亡(殺人26名・逮捕監禁致死1名・殺人未遂2名)、地下鉄サリン事件では数千人が被害に遭いました。

13人の死刑は等価とは言えませんが、それでも遺族の報復感情は癒されたでしょう。しかし、京都アニメーション放火殺人事件は……。医師や看護師に漏らした、死にたいという言葉が犯人の本心ならば、自分はその点において、犯人に最後の人間性を見ます。連合赤軍による総括リンチ殺人事件(山岳ベース事件)で、森恒夫は獄中自殺しました。

浅沼稲次郎社会党委員長刺殺事件の山口乙矢も、それは同じでした。両者とも、やったことはもちろん許されませんが、自分で自分も裁いたというその一点において、評価せざるを得ません。自分が同じ立場になった時、果たしてそれができるかと問えば。総括リンチ事件のもう一方の主犯でありながら、獄死という形で死刑を回避した永田洋子のような醜態を晒す可能性が、否定できないからです。

■犯人に感じたこと■

今回の件で、手塚治虫先生の『ブラックジャック』の中の、主人公が大手術で助けた人物が死刑になるエピソードを挙げて、同情を表明する人も見かけました。死刑廃止論を口にする人もいました。死刑にするなら、助けた行為自体が無駄であった、虚しいと。しかし自分は、この考え方には反対です。犯人を死刑にしても、亡くなった方は生き返らない。そんなのは当たり前です。

近代法が復讐法なのは、被害者やその遺族の報復感情を満たすために死刑にするのであって、被害者を生き返らせるなんて、そんな呪術的な目的ではありません。そして、この犯人を必死の手術で、医療関係者たちが助けたことには、大きな意味があったと自分は思います。もし犯人があのまま死亡していたら、その動機は謎のままだったでしょう。

本人が裁判に出廷し、なぜあんな事件を起こしてしまったかを自分自身の言葉で語り。検察や京都アニメーション関係者や、実の母親から諭されることによって、あの事件と向き合う時間が得られたのですから。最後まで、被害者や遺族への謝罪や反省を口にしなかった附属池田小事件の犯人に比較して、京都アニメーション放火殺人事件の犯人は、弁護団も含めてどこか諦めている部分を感じます。

■被告への復讐は…■

今回の事件では、生き残った方の間にも、心と体に大きな傷跡を残しました。自分は学生などに物語を作り、絵を描く技術を教える立場の人間です。自分自身が多少は絵を描く人間だからこそ、京都アニメーションのスタッフたちの素晴らしい才能が、いかに希少なものであり、それが失われることの重さを、一般人よりは理解できる立場にあります。

『小林さんちのメイドラゴン』のアニメ第一期の武本康弘監督とか、本当に素晴らしい才能で。作品を見返すたびに、その才能がもう失われてしまったことが、残念でなりません。ご存命ならどれほど素晴らしい作品を、作り続けられたか……。毎日新聞のこちらの記事を読むと、運よく生き伸びることができたスタッフも、本当に辛いリハビリと、現実に向き合っています。

【「やけどの痕、生き地獄」人前で外せぬ手袋 京アニ公判で社員】毎日新聞

 36人が犠牲になった2019年の京都アニメーション放火殺人事件で、殺人などの罪に問われている青葉真司被告(45)の裁判員裁判の第20回公判が4日、京都地裁で開かれ、負傷した従業員ら4人が法廷で意見陳述した。「やけどの痕がある限り一生、生き地獄です」。重度のやけどを負った20代の女性社員は過酷なリハビリを振り返り、悲痛な思いを語った。
(中略)
 左手に少し後遺症が残ったが、元の部署に戻って作画作業に携わる日々が始まっている。「人々に愛される作品を作っていくことが、被告への復讐(ふくしゅう)だと思っています」と語った。

https://mainichi.jp/articles/20231204/k00/00m/040/224000c

自己愛性人格障害を抱えていたであろう犯人の、生まれ育った環境、親との関係など、同情できる点はあるのですが。あまりに身勝手な犯行であったのも、また動かしがたい事実です。被害者の「人々に愛される作品を作っていくことが、被告への復讐だと思っています」の言葉は重いです。素晴らしい作品を作ったが故に、狂人に目をつけられ、逆恨みされ、理不尽に人生を奪われた人たち───。

弁護団はどうせ死刑になるなら安らかな方法を、と言っていますが。絞首刑自体は、頸椎が折れることによっての死亡ですから。苦痛自体は感じることなく死に至りますし。X(旧Twitter)上ではむしろ苦痛を与える死刑方法で、犯人に向き合わせるべきだという意見も多数、流れてきました。まぁ、それは法的にも無理でしょうけれども。もし本人にやれることがあるとしたら、獄中手記を残すことでしょうね。

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