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AIで中流階級の再興?

◉AIに対する敵視は、主に自分の仕事を奪われるという恐怖なのでしょうね。SF映画の古典的傑作『メトロポリス』の、アンドロイドのマリアもそうですし、『キングコング』は黒人の社会進出による仕事を奪われる怖さを、無意識に表現しています。欧米社会は、本音では奴隷がほしい・でも奴隷の反乱は怖い、という二重性を持っています。だから、AIに対しても、自分たちの仕事が奪われて、路頭に迷うのではないか……という恐怖を持っています。しかし、AIはむしろ技能が高い労働者よりも低い労働者の助けになっている、という指摘がありました。

【ノア・スミス「今週の小ネタ: 実は,AI が中流階級の再興の助けになるかも」】一般社団法人経済学101

先週,7000語もの長文で,『技術革新と不平等の1000年史』書評を書いた.同書では,AI による自動化で中流階級が一掃されそうだと主張されている.この主張をうまく立証でいているとは,ぼくは思わない.ただ,AI によって中流階級が空洞化する可能性は除外できないのも事実だ.そういうことは起きるかもしれない.

それでも,この点について希望をもつ理由はあると思ってる.生成 AI に関していろんな実験を経済学者たちがやりはじめるやいなや,信じられないほど一貫したパターンが見出されている:AI によって,高技能労働者と低技能労働者の生産性格差が狭まるというパターンだ.これは,去年の記事で指摘した:

https://econ101.jp/at-least-five-interesting-things-8dd/

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、AIを使う男性のイラストだそうです。

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■コンピュータは敵か?■

ずいぶん昔、パソコンにやってもらいたい仕事は何かと問われ、多くのアメリカ人は風呂の掃除と庭の芝刈りと答えたとか。単なる肉体労働の代行です。面倒くさく、お金にならないけれど、放置は出来ない労働。パソコンと言うより、それはロボット工学の問題だと思うのですが、当時のアメリカ人には「パソコンってよく解らないけど、便利な世ってそういうことでしょ?」というイメージで。絵を描いたり作曲したり小説を書いたり動画を編集したりといった、クリエイティブなことには興味がなかった。そんなもんです

詳しくは、上記リンク先の全文をお読みいただくとして。かのスティーブ・ジョブズはAppleのパーソナルコンピュータMacintoshを、"The computer for the rest of us"と、表現しました。取り残された我々のためのコンピュータだ、と。コンピュータとは本来は、一部のスーパーエリートが、分析や研究や開発などに使う道具であり、元々は大砲の砲弾の軌道計算や、あるいは暗号解読のために開発された前史があります。計算機械チューリングマシンを開発した天才数学者アラン・チューリング博士とか、そういうレベルの話で。

でも、巨大なビルぐらいあったコンピュータが、家のテレビぐらいの大きさになって、個人が利用できるようになったら、ある意味でめんどくさい部分はコンピュータに任せて、人間は創造性の部分に注力できるようになったわけで。例えば、チャップリンはチェロなどの楽器の演奏はできたのですが、楽譜が読めなかったんですよね。なので、彼が作曲した数々の名曲は、彼が口ずさんだメロディを、楽譜が書ける音楽家が、書き留めスコアにしたわけで。コンピュータやAIとは同様に、作曲は出来るが楽譜が読めない・書けない人のサポートになるわけです。

■二流のプロが失職する■

残念ながら、Macはむしろ芸術家や表現者に愛され、何やらプロフェッショナル用の高級なコンピュータというイメージが、ついてしまいましたが。そうではないのです。ただ、取り残された人用のパソコンは、取り残されるどころか先端を行く人が使っても有用なぐらい、受け幅がある存在だっただけで。MacもWindowsもChromebookも使う自分からすれば、Windowsのインターフェイスの方が、圧倒的に難しいというか、使う人の立場に立っていないんですよね。

ただ逆に言えば、作曲の才能は少ないけれど楽譜が読める・起こせるタイプの人間は、AIから仕事を奪われる部分はあります。初音ミクが出たとき、こんなモノが歌手の仕事を奪えるはずがないと言ってた音楽関係者がいましたが。その視点が、そもそも間違いで。一流から、仕事は奪えません。仕事を奪われるのは、楽譜が読めないアイドルのために、仮歌を歌うタイプの、中途半端なプロです。まさに、作曲の才能は少ないけれど楽譜が読める・起こせるタイプの人間と同じで。

こういう研究結果を見ると,生成 AI がテクノロジー方面での「凡人の逆襲」をもたらすかもしれないと思わされる.ソフトウェア開発や財務管理やビジネスコミュニケーションの達人たちは AI による補佐があってもほんのわずかな助けにしかならないかもしれないのに対して,その他大勢の凡人たちは AI の補佐で自分の仕事が〔ずっとうまく〕できるようになる.

同上

技術に欠けがあるけれど本質的にクリエイティブな人は、便利な道具たりえます。自分も、Macは本作りやデザインなどに、重宝しています。イラストレーターや漫画家も、デジタルで絵を書くのに、利用していますしね。で、記事ではむしろ、凡人の逆襲をもたらすと書いていますが。そういう部分もあるだろうし、中途半端な才能の人間の職を奪う可能性はありますが。トータルとしては、生産性が上がる可能性があると、保留を付けつつ肯定します。

■世界はオタク化する?■

では、生産性が上がれば、どうなるか? 増えるのはお金ではなく、たぶん人間の労働時間が減るでしょう。逆に言えば、余暇が増える。人類史の研究では、昔の狩猟採集生活での人類の労働時間は4時間で、しかも半分は狩猟道具の手入れに費やされ、実働は2時間ぐらいだったとか。つまり人類は本来、4時間労働の生き物。今が働き過ぎなんです。AIによって農業の省力化とか製造の省力化が実現したら、確かに賃金は下がるかもしれませんが、結果的に余暇の時間が増えるでしょうね。

そうなったときに、酒飲んでウェーイで終わりの無趣味な人間には、辛くなるかもしれません。でもそうでない人間───特に1人でも楽しめる趣味があるオタクは、スポーツでも音楽でも芸術でもゲームでも、楽しみが増えるかと。AIに関しては、何か発言すると内容も見ずに、著作権の侵害が~とか言い募ってくる人がいて。それが、どうもプロのクリエイターではなく、著作権とか関係なさそうな人なのが、笑ってしまうのですが。一応これでも、数十冊の本を出して、著作権者としてむしろ被害者の立場なんですが。

一般に,人工知能は,カテーテル挿入のような利害の大きいタスクを[自動化]しないだろう.だが,AI は,しかるべき専門知識の基礎を備えている労働者のレベルを向上させられる.AI は,よくできた基礎工事のうえに幾層もの建物をたてることで,専門知識のおよぶ範囲を拡大できる.

近視眼的には、AIは仕事を奪う人も出るでしょうけれども。結果的に労働時間を大きく減らすでしょう。農業の自動化とか、運転の自動化で、ただの農家やただの運転手は、仕事がなくなりますが。高付加価値の作物を作る農家や、高い運転技術を持つドライバーは、仕事はなくならない。逆に言えば、これからは個々人が、クリエイティブな趣味やサイドビジネスを持つ時代になる可能性が。オタク化する世界。ただ、クリエイティブな才能が無かったり、興味がない人も、ゲームなどの消費者として、世界に貢献できるかと。


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