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ネット書店とリアル書店:売れる本の感覚のズレ

◉シュッパン前夜編集部さんのnoteが興味深かったので、紹介&雑感を。自分は出版社勤務して漫画雑誌の編集をしていましたが。漫画雑誌って、実際はグラビアもあれば記事ページもあり、小説が載っていることもあり、ゲームページや読者ページが充実していたりで、漫画専門というわけではなく、オールラウンダーであることが求められます。なので、ライターとしてパソコン誌やムック本なども執筆していたり、デザインもしたり。なので、ここらへんの感覚は、部分的に理解できる点もあります。

ヘッダーはMANZEMIのロゴより、平田弘史先生最後の揮毫です。

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■ビジネスモデルの違い■

健康書や実用書、ビジネス書といったジャンルは、すごく雑な言い方をすれば、大衆を扇動して買わせるジャンルです。こうすれば儲かる、こうすれば痩せる、そうやって大衆の欲望を刺激してきたジャンルです。その逆にこうしないと損をするという、不安を煽ることも。昭和の時代は、新聞やテレビ、ラジオの情報を鵜呑みにする人たちを相手にしてきたわけで。テレビに取り上げられれば いきなり本が売れる、なんてこともしばしばでした。

マス=大衆に訴えるには、マスコミの力が大きく、だからこそメディアは強く。そのメディアに対する、広告料という形での利益をもたらす広告代理店が、圧倒的に大きな力を持っていました。ただ新聞出版業界は、また ちょっと違っていて。テレビやラジオが電波という流通ルートを持っていたのに対して、新聞社は新聞を流通させるための独自ルートを持ち、出版社は取次会社を通して、全国の書店に本を流通させるというルートを持っていました。

■バブル崩壊後の成長■

新聞や雑誌は、自分自身がメディアでもあったわけですから。テレビやラジオの宣伝効果は大きいのですが、必ずしもそれに依存しているわけではないんですよね。出版社のマガジンハウスが、広告収入に依存したビジネスモデルに舵を切った結果、バブルが崩壊して広告収入が激減し大きなダメージを負いましたが。広告収入が全利益の10%から20%程度しかいなかった多くの出版社は、それほど大きなダメージを受けず。バブル崩壊後も1995年まで、出版業界の売上は右肩上がりでした。

出版業界にはそういう意味で、広告料依存型のタイプと、売上中心型のタイプに分かれます。その場合、前者はメディアの宣伝に、左右される部分があります。では新聞業界はどうかといえば、販売ルートは独自のものを持っていますが、利益の半分以上が広告収入に依存するという点において、ビジネスモデルはテレビやラジオと似た部分があります。ただ、全く同一ではないので、新聞業界もバブル崩壊後も成長を続け、発行部数のピークは2001年でした。

■新メディアの台頭■

実は戦前も、不況の波が日本全国を覆っていた時期、出版業界は比較的好調でした。このため「出版業界は不況に強い」という言葉が生まれました。ある種の不安産業ですから、不況の時期になれば「こうすれば この苦境は逃れられる!」といった本や、「あなたたちの生活がこんなに苦しい原因は、こいつが犯人だ!」と煽れば、売れやすい。平成不況の時期、破産の相談や過払金の相談で、知り合いの弁護士事務所が成長した似ています。

では、冒頭の出版の感覚のズレは、何故起きたか? 社会学者でもない自分には、単なる感覚的な話しかできませんが。スマートフォンの普及によって、旧来のマスメディアではないメディアが、この10年間で急速に台頭したからでしょう。双方向性のインターネットとSNSの発達によって、「こうすれば儲かる!」と喧伝しても、「それは切り取りや誇張ですよね?」と疑義やツッコミが入る。そのツッコミにも反論が入り、妥当なところに着地します。

■2016年に胎動を知る■

実は自分も、このSNSの力を、長らく認識していませんでした。気がついたのは 2016年、自分の本の売上で。この年、誠文堂新光社から、書下ろしで『○×式で解説 誰でもかんたん!! パースがわかる本: 空間認識力アップで漫画・イラストが上手くなる!』という実用書を出したのですが。雑誌で連載していたわけでもなく、出版社も、さほど宣伝に力を入れてくれていたわけでもなく。そもそもTwitterでの反応も大したことがありませんでした。

ところが発売日になってびっくり仰天、Amazonの方で午前中に完売、ジャンル別ではありますが 売上ランキング1位獲得。これは、楽天やhontoや紀伊国屋でもそうでした。版元はすぐに重版を決め、その後に海外での翻訳も決まり、英語版にフランス語版、中国語版も販売されることに。1980円と、新書版単行本の4-5倍の値段で、初版部数も5000部と少なかった本が、紙と電子を合わせてその10倍以上売れたわけです。

■コップの中の小ヒット■

コレって、漫画の新書版なら20万部以上に売上に匹敵します。元がそんなに売れるジャンルではなく、1万部も売れればヒットの世界ですから、価値はもっと大きいでしょう。海外版の売上数は把握していませんが、なんやかやで30万部に匹敵する売上。自分が編集者になったとき、つげ義春先生の『ねじ式』が累計30万部ほどで、当時の編集長から、30万部を超えられるかがメジャーとマイナーの、ひとつの基準と言われました。

個人的には、この感覚は概ね正しいと思います。実際、歴代のヒット作の社内資料を見ると、やはり30万部を超えられるかが大きな壁になっていました。自分の担当していた作品とか、3万部でヒット、5万部で編集長に褒められ、10万部で販売部長に作品名を覚えてもらえるレベルの世界でしたから、驚きでもありました。では、あのときいったい何が起きていたのか? 実は時代に変化の胎動が始まっていたのです。

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