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雑談:これからの出版業界

◉電子書籍配信サービスのナンバーナインの、タクヤコロク編集長のnoteが興味深かったのでツイートしつつ、アレコレと雑談をツイート。それをnoteにまとめて、加筆修正しました。内容充実で有料記事にしたいぐらいですが、敢えて無料で公開します。出版業界に興味がある人、作家を目指す人、業界関係者に向けて。5000文字弱ありますので、読みごたえは多少ありますがm(_ _)m

こちらの、自分のnoteと併せて読むと、前提が理解できます。

自分は、本好きが昂じて編集者になり、DTPも独学で修得して大学や専門学校で講義できるぐらいまでになり、ついには作家の側にまで踏み込んでしまったバカヤロウ様なんですが。電子書籍について語ると、「私は紙の本が好きです」と、釈迦に説法マンが現れてリプライしてきて、辟易します。たぶんあなたより、100倍は自分のほうが本が好きですが、そもそも好き嫌いの話はしていませんので。

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■出版業界は好調■

漫画や出版業界の未来について、雑誌がバタバタ潰れていたり、部数が全盛期よりガタ落ちになってるという情報を聞きかじって、一知半解の知識を振り回す人が居ますが。実際は、そんなことはありません(キッパリ)。それについては、こちら↓の菊池健氏の連ツイを参照のこと。雑誌の不調と漫画自体の好調さとは、別の話です。それは出版業界全体もそう。

事実大事。事実より真実が大事な、小手川太朗朝日新聞記者はどうか、知りませんが。

で、自分はこの出版業界全体の伸びに、更にもうひとつ並列して、個人出版やインディレーベルの台頭があるのでは……という立場。上記note『数字で見る出版事業の曲がり角』でも書きましたが、同人の市場規模の伸びが、週刊少年誌で100万部売るよりエロ同人誌で9万部弱売る方が、印税収入が大きい時代。たぶん、この流れは止まらず、出版社も電子版の印税率を上げざるを得ない時代です。

■技術と温故知新■

個人的には縦スクロールも、横折りの折りたたみの液晶がはやれば、アッサリ廃れる可能性って有ると思ってます。イヤだってガラケー全盛時、高校生とか片手で超高速で文字打ちしてましたよね? でも、スマホで文化が変わっちゃったしね。もちろん、フリック入力は残りましたが。でもけっきょく、タイプライター時代から続くQWERTY入力は、廃れることなく。スマートフォンの時代にはかえって重宝。

技術ひとつで文化は変わるので、けっきょく千年以上の歴史がある冊子の文化って、根強く残ると思うのですよ。ただ歴史を見ると、冊子の前は巻物の文化。中国の春秋戦国時代の竹簡や木簡もそうですし、世紀の大発見と言われた死海文書も、縦横の違いはアレ、巻物ですから。縦スクロールって要は、横書き文化の巻物。電子書籍のページめくりは冊子に擬態してるけど、あれも巨視的には巻物なんですよね。

もっと言えば、iPhoneやiPad、タブレット型って古の石盤や粘土盤みたいなモノですからね。20世紀初頭までは盛んに使われていた石盤はすっかり廃れたと思ったら、21世紀に最先端のデバイスに復活するんですから。流行り廃りを追うことって、自分は危ういと思っています。温故知新──故きを温ねて新しきを知る──って、やっぱり大事だと思うんですよね。これは後でもう一度書きますが。

■世界市場はどこにある?■

国際市場を目指すなら、そりゃ漫画も縦スクロールが読みやすいかもしれませんが。小説はどのみち翻訳されるので、縦横関係ないですけど。ですがその漫画市場、世界的には日本が突出して巨大なんですよね。その規模、およそアメコミ市場の10倍です。『アベンジャーズ』シリーズの世界的メガヒットとか映画産業は巨大でも、アメコミは10万部でヒットの世界です。ちょっと古い2012年のデータですが、こんな資料もありますのでリンク。

・2011年の日本のコミックス販売部数は4億5216万冊
・2008年の米国のコミック市場は4億3660万ドル(当時のレートで402億円)
・2009年の仏国のバンドデシネ売上は2億4612万ユーロ(約246億円)。ただし新刊の3分の1強は日本のマンガ
・2009年に英国で販売されたコミックは181万3771冊
・2011年で韓国でマンガは916万部

日本がいかに巨大な市場か。だから昔、専門学校や大学で教えていた中国人や東南アジアからの留学生も、日本市場を目指していました。アメコミやバンドデシネなど、そういうニッチを最初から目指すのは構わないですが、世界最大規模で特殊ジャンルも成立する日本国内国内で受けないのに、国外で受けるのか疑問です。寺田亨先生のような例はありますが。例えるなら、MLBで通用しないアメリカ人選手が、これからは日本球界や韓国球界の市場が大事って言ってるようなもの。

■釈迦に説法マンの御意見■

ちなみにウチの作話ネーム講座ではコマ割りの文法を教えているんですけれど、別に「コマ割りはこうすべきだ!」なんて、がんじがらめの押しつけをしてる訳ではなく。漫画研究書に書かれてる「手塚治虫が映画の表現技法を採り入れた」の、具体的な表現技法を教えているので、むしろ国際的に普遍性のある技術を教えています。ゆえに縦スクロールだろうが横スクロールだろうが、対応可能ですし。

で、自分はどうやって、国内市場にニッチを見つけるか。ナンバーナインさんのnoteの話題にも、論点が理解できない(たぶんナンバーナインの元noteも自分のnoteも読んでいない)知ったかぶりをかました素人が、リプしてきましたけれど。別に『鬼滅の刃』のような超絶ヒットを創る話なんかしてないので。恥じて消される前に、noteに転載しておきますね。

誰が万人向けの話をしているのやら……。好きなことで一生細々と食っていける隙間産業をどう創るか。そっちの世界がメジャーな世界と並列して生まれたら、それが多様性。個人出版の、個々の規模は小さくても、総計としてはそこそこになればいいのです。

はい、元noteも自分のnoteも読んでないこと確定。こっちがわざわざDMM.COM同人の部数と印税率を調べて、できるだけ正確な数字を出し、20%や30%の割引サービスも頻繁にあると、注釈を入れてても、このざま。

そういう憶測は、チラシの裏にでも書いていて欲しいですね。どうせ、不審死とやらのまともな統計も出せないでしょ? もりしげ先生の自殺とか、脳内で壮大な陰謀論に仕上げているのかな? そもそも不健康で、早死にが多い業界なのに。

高いところに行く話なんぞ、していません。読解力のなさというか、人の話をそもそも聞く気がないタイプでしょう。DMM.COMの点数とか売上も、まともに調べる気もない。

と、元記事もまともに読まない人がレッテル貼ってます。印税と売上の違いも解らず、必要経費さっ引いてとか、典型的な知ったかぶりの釈迦に説法マンですね。まぁ、相手するのもバカバカしいのですが、DMM.COM同人の印税率を以下に。この御仁も、プロの漫画家の数十%がフォローしているであろうアカウントに、何言ってるのやら。ダルビッシュ有投手に投球技術論を語る素人か( ´ ▽ ` )ノ

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■蟹は甲羅に合わせ穴を掘る■

やれ世界だ、やれ滅びるだの、足下も見ず出版業界全体の大きな話をしても、しょうがないのですよ。作家の90%はさして売れてない有象無象なんですから。ですけど、頂点だけで市場は形成されないのです。有象無象がニッチな、小さな需要を埋めて、結果的に広い裾野を形成してるのが、出版業界全体が見えない人には理解できないのです。自分の周囲の有象無象が食える場を造るのが、目的ですから。

もう、7年ぐらい前ですかね、ある先生と「月に300円払ってくれるファン1000人で、俺たちは細々と食えるんだよね」って話をしました。それが1000円で300人でも、いいんですけど。極端な話、別に本業を持ちながらなら、月100円払う読者1000人いれば、作品創りたい人がいるんです。副業としては充分な世界。コッチが目指すのは、そこをどう掬いとるか、です。

つまり『鬼滅の刃』や『ONE PIECE』の300万部だ400万部だのの、数十万分の1から100万分の1の、ニッチな市場の話です。街の印刷屋の社長に「大日本や凸版のようにならねば世界に取り残されるぞ」とか「このままでは印刷業は滅びる」と力説してどうする、って話です。そういうのは、大日本や凸版の偉い人がする話。全国に3000人から6000人しかいない漫画家の90%は、街の印刷屋の経済規模なんですから。

■プロと何者でもない素人■

来月の資金繰りの相談に来た社長に、世界だの滅びるだの、話してどうするんですか? ウチは、甲羅に見合った穴の掘り方を教える、小規模でセコい商売です。でもそれ、知識も経験もかなり無いとできないんですけどね。知ったかぶりさんには、床屋政談的な大きな話はできても、LeMEを使っての小説の電子書籍出版の方法論や、inDesignを使ってのDTPや印刷書籍作りの話はできないのと、同じです。

だってそれは、プロの領分ですから。ナンバーナインの編集長も、自分も、いちおうこの業界では深いところに関わってきて、プロと自称してもそんなにおかしくないでしょう。それが、電子書籍での個人出版の可能性に、思いを馳せてるわけで。ちなみに資金繰りの話は、会計士だの弁護士だの司法書士だの保険関係者などなど、むしろ本当のプロフェッショナルの方が、深く具体的な話ができるのと同じですね。

「日本に共産主義革命を!」とか「消費税廃止!」とか「受信料廃止!」とか、素人が訴えても追い風に乗れば国会議員になれちゃうのと同じ。政治家は、そこからプロになっていきますが。釈迦に説法マンさんは、何者でもないし、何者にもなれない。床屋政談かますなとは言いませんが、自覚は必要。大きな話は大事ですが、今話してるのはそれじゃない。こういう御仁と話しても、得る物は無いです。ジャンル違いでも、得る物があるのは経験を積んだプロ。その話がコチラ。

■中庸と狂の人と狷の人と■

これ、派生する話ですけど。イノベーター理論を囓ると、先進的なイノベーターが偉く、変化を拒むラガードがダメという理解をする人がいます。けれどイノベーター理論は、上下は基本的に言ってないんですよね。消費者を分析すれば、だいたいそういう比率になりがちですよね……という分析です。上下や優劣で理解しちゃうのは、ダーウィンの適者生存を優勝劣敗と読み替えた、ナチスの優生学と同じ誤謬です。

論語で孔子は、中庸が理想だがそういう人間は得難い、セカンドベストは狂か狷の人間だと喝破しています。狂とは、過剰なエネルギーを抱え、現状のルールや慣習を突破していく人。膨大な仕事を抱えながら虫プロを立ち上げ、毎週アニメを放映しようとした手塚治虫先生や、徴兵拒否でアメリカと闘ったモハメド・アリみたいな人がそうでしょう。世界を変えようとしたAppleのスティーブ・ジョブズもそうですね。

狷とは、狷介という熟語にも使われるように、疑り深く猜疑心が強い人。世の時流に背を向ける頑固者。例えばソビエト連邦の一部に組み込まれていた時代に、政府から禁じられた民族の伝統の染め物技術を、密かに残し後世に伝えたウズベキスタンの、織物職人たちのような人がそうでしょう。命懸けの頑固者。イノベーター理論で言うなら、狂がイノベーター、狷がラガード。

論語子路篇第十三
子曰、不得中行而與之、必也狂狷乎、狂者進取、狷者有所不爲也。

書き下し文
子曰わく、中行を得てこれに与せずんば、必ずや狂狷か。狂者は進みて取り、狷者は為さざる所あり。

■イノベーターはラガード■

何やらイノベーターが素晴らしい人で、ラガードが困った人というイメージがありますが。違います。そもそも人格の話も、イノベーター理論はしてません。手塚先生やアリ、ジョブズは偉人であり、同時に傍迷惑な部分もあったように。ラガードが周囲と軋轢はあっても、大切なモノを伝えたりするように。両者は上下ではなく、人間のひとつの在り方です。ゆえに孔子は、セカンドベストとして狂者と狷者を等しく評価したのです。

一神教的なピラミッド構造を好む西洋思想と、二極一対を好む東洋思想の違いです。ここでも、適者生存を優勝劣敗と読み替えるナチス脳の人が現れないように釘を刺しますが、東洋と西洋の上下は言っていません。ちなみにジョブズは、ノートパソコンの時代を予言しながら、同時にデスクトップ型市場でiMacをコンシューマ向けから脱却させ、モニター一体型の独自のポジションを築くなど、イノベーターでありラガードでもありました。

中庸とは平凡と同義ではない。
振れ幅の大きさがあってこその中庸。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ