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ヴィレッジヴァンガードの危機

◉ヴィレッジヴァンガード、田舎にはこういう本屋はありませんからね。というか、大型書店さえなく、文房具屋と兼用の小さな本屋があれば、まだマシな方で。個性的な本屋があるのは、都会の特権。そういう意味では東京的な、都会的な本屋ですね。愛知県発祥ですが。そのヴィレッジヴァンガードが、いろいろとマズイことになってるそうなんですが。多角経営による失敗とか、売上重視による没個性化とか、典型的な経営失敗のパターンですけどね。

【ヴィレヴァンが知らぬ間にマズいことになってた】東洋経済オンライン

「遊べる本屋」はなぜ魅力を失ってしまったのか
「遊べる本屋」、ヴィレッジヴァンガード。「ヴィレヴァン」として全国に店舗を広げる同店だが、知らないうちにそこそこマズいことになっていたらしい。

というのも、2023年11月中間決算によると、営業損失が7億4900万円で、前年同期の1億7600万円の損失から赤字が拡大しているからだ。既存店の数はここ数年で減り続けており、それによる単純な減収、そして人件費や物価高の影響も響いている。

売上高ベースで見ると、2016年5月期が最高収益で、467億5800万円。ただし、そのときも営業赤字は2億円ほど出ている。2007年に買収した中南米雑貨の「チチカカ」が、その経営の足を大きく引っ張っていたようだ。

2017年にはチチカカを売却し、ヴィレヴァンのみでの営業を続けているが、その後も黒字化と赤字転落を繰り返し、経営の足取りはふらついている。

https://toyokeizai.net/articles/-/728491

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、ヴィレッジヴァンガードの写真です。

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■都市型本屋の限界■

曲亭馬琴が、お江戸はありがたい書いていたように、唐辛子売のような利益が薄い商売でも、圧倒的な人口がいるからこそ成り立つ、という面があります。江戸は幕末には100万人を突破し、同時代のロンドンやパリを抜いて、世界最大の都市となっていましたから。100万人もいれば、1000人に一人しか買わないようなものでも、1000人の需要がありますからね。いわんや、1410万人の花の都大東京なら、そこだけで14000人の需要がありますからね。

 ヴィレヴァンの大きな特徴は、本やCD、DVDといった雑貨がジャンルレスにそこかしこに並べられ、まるで洞窟のようになっている店内空間だ。エンターテインメント性を押し出した店舗の空間こそ、ヴィレヴァンの強みの一つだった。だから、オンライン事業への注力は、その強みが生かせなくなるジレンマを引き起こすのだ……と、不破は言う。(続々と店舗を閉鎖するヴィレッジヴァンガード。オンライン化を遮る“壁”/日刊SPA!)

九州とか、あれだけの土地があって、福岡とか熊本とか、地方都市としてはけっこうな都会だと思うのですが、それでも1255万人しかいませんからね。面積は4万2231.48平方キロメートルもあるのに。東京の面積は2193.96平方キロメートルですから、20倍も違うのに。都市型の書店は、都市型の書店として、生き残り戦略がったのですが。中南米雑貨とか、狙いは面白いと思うのですが、そこまでの需要はなかった感じですかね。都市型の店舗は、すぐマネをされちゃうので、厳しいですね。

■和製サブカルの弊害■

もう一点、サブカル型の運営の難しさはあるでしょうね。サブカルの定義は難しいのですが、メインカルチャーではないというのがあります。メインカルチャーとは、定義は難しいのですが、大学で学問として教えているようなものですね。なので、ジャズや漫画やアニメやゲームはメインカルチャーになり、ロックやプロレスはメインカルチャーとは言えません。大衆文化=ローカルチャーではあるんですけどね。自分が上京した80年代末は、サブカル勃興期でしたからね。別冊宝島とかが、牽引していました。

ヴィレヴァンは、よく「サブカル」の聖地だといわれる。歴史的にいえば、メインカルチャーに対する傍流として「サブ」カルチャーといわれることが多く、ヴィレヴァンの創業者である菊地敬一も、ヴィレヴァンの創業にあたって「B級である矜持を持とう」というメモを書いていた。A級ではない、傍流としての「B級」を目指す姿勢がよく現れている。

でも、映画や落語やプロレスなど、メインカルチャーではない、でもローカルチャーであったところに、クリエイターではない好事家が付くと、それはサブカルチャー化する面が。そして「すべてのジャンルはマニアが殺す」になります。和製サブカルは特に、その傾向が強いです。排他的でプライドは高く、クリエイターよりも評論家を上に置こうとする点で似ています。クリエイターになれなかった・なれたが望んだほどの成功を得られなかったがゆえの、コンプレックスが強いのですが。

ここらへん、メインカルチャーとサブカルチャー、ハイカルチャーとローカルチャーの違いに興味がある人は、下記のnoteも参照してください。良くわからない人には、サブカルもオタクも似たようなものなんですが。そもそも、オタクはマニアの中のコミュニケーション能力に欠ける人間への別称であって。オタクは下手くそでも自分で何かを生み出そうとする人間であって、評論家や編集者や記者やライターなどは、作家に似ていますが違います。他人のフンドシで飯を食う商売ですから。

■竹村響氏の指摘■

さて、元竹書房の編集者である竹村響氏が、ヴィレッジヴァンガードについて、興味深い指摘をされています。ヴィレッジヴァンガードの凋落は、POSレジの導入が大きかったのではないか、という指摘です。POSレジとは〝Point of sale system〟の略で、販売物の売上を個々の単位で集計するシステムです。何がどれだけ売れたか、毎日リアルタイムで集計されるので、本の売上とかパソコン1つで把握できます。日本語では販売時点情報管理なんて呼ばれますが。出版社にとって、ありがたい存在です。

ヴィレヴァンがマズくなった…のは出版社目線で「POSレジ」の導入からだと思っていて。書店のPOSレジって「5冊入荷した本が24時間以内に3冊売れたら自動的に2冊追加発注する」みたく売り逃しが減る素敵なシステムだけどデメリットは「売場が売れ線の本ばかりになること」

https://x.com/pinkkacho/status/1748184201315406131?s=20

このPOSレジがヴィレヴァンに限らず日本中の書店の売上効率をめちゃくちゃ改善してくれて、でもかわりに日本中の書店のラインナップを均質化してしまった。それでよかった書店が大多数だと思うけど「個性」で売ってたヴィレヴァンはこのデメリットのワナにはまっちゃったんじゃないかなあ

https://x.com/pinkkacho/status/1748184845657014567?s=20

ヴィレヴァンの本の売上が悪くなってPOSレジが導入されるとともに店長さんたちの発注権限が制限されて本部一括発注が増え、実は出版社としては仕事がすごく楽になったんだけど、でもやっぱり全国のヴィレヴァンが似たような店になってしまい…まあ大きくなるということで仕方ない部分はね。あるよね

https://x.com/pinkkacho/status/1748185654671151576?s=20

POSシステムを導入すれば、確かに売上の管理は劇的に代わります。しかし、そういう機械的な品揃えならば、Amazonのオススメで充分ですし、そのAmazonは独自のアルゴリズムがあるのか、ときどき意外なオススメが出てきて、それが嬉しい出会いになることがあるんですよね。データ大事。それは、自分の中では動きません。でも、そのデータをどう分析し生かすかには、経営哲学が必要です。それこそ、ロングテールで売れる本を見抜くのが、プロの目利きであって。

■誰がオールを持つか■

POSシステムに頼るなら、それはプロでなくてもいいわけです。昔、野村克也監督のID野球は、データの神様と呼ばれた宇佐美徹也氏の受け売りだと、批判しているライターがいましたが。宇佐美氏の言によれば、野村監督から「こういう選手やこういうシチュエーションでは、こういう傾向があるのではないか?」と聞かれて、調べてみたら確かにそういう傾向があった、というのが実際のところだったそうです。つまり、そういう勘働きが本の質を見抜くには必要。

プレイヤーであった野村監督の、理論武装として宇佐美氏の協力が有ったわけで。ヴィレッジヴァンガードも、まずは店長の目利きがあって、その補強としてPOSシステムを使うなら、有用だったでしょう。その目利きのためには、サブカルを相手にしているからサブカル目線でいいかと言えば、たぶん作家性がないと、凡庸な目利きしかできず、POSの言いなりになるしかないわけで。でも、そういう目利きは一種の才能で、需要があるからと、店舗を増やしても、そういう才能のあるしタッフは簡単に集まりません。

であるならば、自前で育てるシステムや、ノウハウが必要なんですが。日本は、そういう地道な投資を怠って、目先の利益を応用になりましたね、バブル以降。でも、昭和の残滓と平成の宿痾が、令和の世では精算される予感が。それは、ソ連の後継のロシアと中国と北朝鮮の、どれかの崩壊を含みますが。そうして日本は、もう一度人を育てるところから、始めないとダメでしょうね。明治維新で、青雲の志を抱いた若者が、坂の上の雲を目指したように。もちろん、75年ぐらいするとまた、おりが溜まって、再生が必要になるのですが。

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