薬物とモラル

■ピエール瀧容疑者のコカイン使用と逮捕について。Twitterを見ていると、作品と本人は別で、映画やドラマやゲームがお蔵入りというのはおかしいという意見、これは全面的に同意。

 突出した才能を持った人間だから薬物使用を肯定ってのは、飛躍しすぎ。ここはちょっと難しい話で、例えば桂枝雀師匠がある落語家の話芸に思わず「この人が人殺しでもかまわん」と言ったように、そういう心情は自分にもあるんですよ。

 ただ、薬物使用ってのは、別の意味でダメな面があって。自分が大学生の頃、あるボディビルダーが横浜の繁華街で暴れて、警察に囲まれたら女性を人質に逃げようとして、警察官ともみ合ってナイフで刺し、殺した事件がありました。

■この人物、アナボリックステロイドの使用疑惑がずっとあり、彼が始めたトレーニングジムの人間が、大会後のステロイドチェックで引っかかって会員が激減、叔父に借金を頼みに行って断られたため、ヤケになって暴れたのが発端。

 このとき、覚醒剤もキメていたのが後に発覚します。ステロイドという、禁断の薬物に手を出したが故に、覚醒剤を使用という、罪悪感のハードルも、低くなっていたのでしょう。薬物は肉体だけでなく、倫理観も破壊するんですね。

 例えば大麻解禁論があります。実際、外国ではどんどん解禁されていますから、日本でも時間の問題でしょう。タバコより害が少ないという意見も、自分にはわかりませんが、そうなのかもしれません。でも、重要なのはモラル・ハザード。

■国や共同体の価値観で、禁じられたものを破るというのは、合法なもので有害な物質を嗜好するのとは、別です。アメリカでは禁酒法が壊したのは、遵法意識だという指摘もあるとか。それが快楽につながるものだと、なおさら。

 これが、例えば差別を助長する法律を、あえて破るというのとは、違ってくるでしょう。黒人差別に立ち向かった方とか、横紙破りでも覚悟の種類が違う。いわんや、ピエール瀧容疑者が摂取したのは、コカインですから。

 南米ではコカの木の葉に含まれ、原住民が高山病軽減に噛んでいるとか、コカ茶は町中で普通に売られているとか、そういう状況とも違う。日本では禁止されている薬物を、使うということのモラル・ハザード。

■毎日、ラジオを聴いている自分にとって、今回の速報で思ったのは、エリザベスさんのこと。これは、たまむすびリスナーなら承知でしょうが、ピエール瀧容疑者の娘さんで、スタジオによく遊びに来ていた子です。

 今回の件、もう充分に理解できる年齢で、でも受け止められるほど強い年齢でもないはず。親子仲が良かっただけに、父親の逮捕がショックだと想像できます。知り合いの娘さんは、僅かな金を横領して懲戒免職になった、父親を憎みました。

 高校は地元を離れて寮のある学校に行き、卒業と同時に両親は離婚。娘さんは小学校の高学年でしたが、二度と口を聞くことも、会うことも拒否しています。30年以上。自分はそのことを思い出してしまいました。

■田代まさし氏も、娘から拒否され、それで孤立して寂しさからまた薬物に手を出しと、迷走を続けましたが。家族の存在は大きいのでしょう。まぁ、独身の自分が言っても、説得力はないですが。独り身ゆえ、寄る辺なさは理解はできます。

 吉本新喜劇の岡八朗師匠も、家族の支えがあったからアルコール依存症から立ち直れた。でも、横山やすし師匠は、家族は支えましたが、破滅型芸人の典型例で、医者からこのままだと10年で死ぬと言われて、本当に10年後に亡くなってます。

 今回は、東スポの記事が事前に逮捕を予告していましたから、かなり長期の使用なのかも。今後立ち直るか、それはわかりません。でも、役者としてのピエール瀧は好きだったし、ラジオパーソナリティとしても。残念です。


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