トンネル山を登って
トンネル山を登って、僕は振り返る。パパとママが手を振ってくれた。
トンネル山は園庭の隅っこにあるけれど、頂上からは園庭の全部を一辺に見ることができちゃう。僕はトンネル山が大好きだ。パパもママも、お友達も、お友達のパパとママも、先生だって。みんな笑っているのが見えた。さっきまであんなに泣いていたのに、ほら今はこんなにみんな、笑っている。僕もたくさん泣いちゃったけれど、でも今は僕も、笑っているよ。
「降りておいで」ってママが言う。卒園式のための、このピカピカの靴は汚れちゃうかもしれないけれど、もう少し、ねぇもう少しだけここで遊ばせて。
パパがトンネル山を登ってきた。頂上でパパは「ふぅ。」と息を吐いて、呼吸を整える。「簡単に登っていてすごいなぁ。」ってパパは言うけれど、だって僕は毎日登っていたんだもん。ここが僕の、一番の遊び場だったんだから。
トンネルをくぐってお友達が顔を出した。僕はトンネル山を少し降りてお友達とタッチ。こんなに楽しいのに、もうお別れだなんて信じられないね。でもママが言ってたよ「大丈夫、通う小学校は違うけれど、また会えるから。」って。ねぇ、絶対また会おうね、約束だよ。
「おいで、そろそろ帰ろう。」とママの声。トンネル山を降りたパパが僕を手招きする。僕はまた胸がぎゅって苦しくなって、涙が出てきた。でももう、帰らなきゃね。
僕はトンネル山の頂上までゆっくり上がって、パパとママに向かって大きく手を振る。そして大きな声で「行くよ!」
トンネル山を滑り降りる。しゃがみながら靴を滑らせてバランスを取る。段々加速して、それから最後は立ち上がって走り降りる。そのままパパの腕へ一気に飛び込んだ。「あーあ、靴が。」とママは仕方なさそうに笑った。「今のは格好良かった。」とパパが驚きながら笑った。僕は「すごいでしょ」って言ったけど、おかしいな、涙が溢れてきちゃった。
大好きなトンネル山を毎日登って、僕は大きくなってきた。またいつか必ずね、もっともっと大きくなったなら、またここに来るからね。
【Writone】
“トンネル山を登って”をオーディオブックでどうぞ。
アクター:紗月レイ
アクター:有理
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