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ショートショート 3 公園

   公園
 健太の家の近くに公園がある。その公園は小さい子が遊べる遊具が沢山あることで、市内でも有名だった。健太も小学生の頃は遊具でよく遊んだ。もう一つ有名なことがあった。それは、よく整備された綺麗な花壇が多いことだ。公園を囲むように、季節季節の花が彩りよく咲いている。お天気の良い日は写真をとりに来る人も多かった。たくさんの遊具や花壇があるからなのか、ボールを使うことは禁止されていた。でも、親子でキャッチボールをしている姿はよく見かけていた。
 中学に入ってからはさすがに遊具で遊ぶことは少なくなったが、サッカー部に入ったのをきっかけに、時々友達とサッカーボールで遊んでいた。キャッチボールをしている人がいるんだから、自分たちだって遊んだっていいと思った。その日も、友達三人とサッカーボールでパスやリフティングをして遊んでいた。夕方近くなると小さい子どもたちがいなくなり、公園を広く使えるようになった。
「な、二対二で遊ばないか。ゴールはあの鉄棒にしようぜ」
 と健太が声をかけ、ミニミニサッカーが始まった。四人は夢中でボールを追いかけた。
「シュート!」
 ゴール代わりの鉄棒に向かって、健太は気持ちよくボールを蹴った。
「やったー」
 きれいに鉄棒の真ん中をボールが抜けていった。ところが、勢い余って花壇に突っ込み綺麗に咲いていたチューリップが次々と倒れてしまった。中にはこれから咲こうとしている蕾をつけたチューリップもあった。
「おい、健太。まずいよ。」
「逃げよう」
「そうだよ、早く帰ろうぜ」
 口々に言われ、言い出しっぺの健太はどうしたらいいのか分からず、言われるがままに家に帰った。晩御飯を食べていても気になって仕方がなかった。
「ちょっとランニングしてくる」
 と言って外に出て様子を見に行った。倒した時のままだった。あのまま枯れていくのかな。あした、学校へ行く時公園の前を通ってみようと思いながら帰宅した。次の朝早く健太は家を出た。公園まで走っていった。
『あっ。』
 ひとりのお年寄りが、倒れたチューリップを一本一本起こして植えなおしているのだ。「誰がやったのかのぅ。直しても咲くかのぅ。このままより花もうれしかろ」「咲いたらいいのぅ」といいながら。手は土にまみれていた。
 《直しても咲くかのぅ》
《このままより花もうれしかろ》
 健太はお年寄りの言葉を何度も心の中で繰り返していた。公園は遊ぶ場所と思っていた。でも、違った。お年寄りの土だらけの手に教えられた。            
 健太はお年寄りのそばにじっと立っていた。

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