見出し画像

ショートショート 5 悪友か? 

  悪友か?
『また今日も遅刻だ』
 そう思いながら美津枝は待っていた。
「ごめん。また遅刻だね。もう怒られるの慣れちゃった」
 綾野は悪びれることなく笑顔で声をかけてきた。綾野と美津枝は小学校の時に同じクラスで仲良しだったが、中学一年ではクラスが違ったのであまり話をすることがなく、自然に距離があいていった。中二のクラス替えでまた一緒になったのだ。周りから見たら仲が良いように見えるかもしれないが、美津枝の本心は違っていた。小学校の頃、いじめにあった美津枝を綾野は助けてくれた。いい人だと思った。確かに綾野は優しい。でも、時間にルーズなところが好きになれなかった。小学校六年の修学旅行も危うく遅刻しそうになり、先生にものすごく怒られた。
『あたしは早く待ってたのに』
 いつも心の中で思うことだった。
「おい君たち、また遅刻か!今日の放課後二人で職員室来い」
 二年生になって二度目の呼び出しだ。美津枝は、この前と同じでごめんなさいを言っとけばいいや。遅れてくるのは綾野なんだし。そう考えていた。
「綾野は廊下で待ってなさい」
『えっ、あたしひとり?』
「美津枝、よく遅刻するな。普段の君からはちょっと考えづらいんだけどな」
 先生は何か言いたげだった。
『どうしよう。ほんとのこと言っちゃおうかな。言ったら怒られないかもしれないし』
「綾野とは小学校のときから一緒なんです。あたしがいじめられているのを助けてくれたんです」
「それと遅刻とどういう関係があるんだ?」
「だから、え~と。綾野がいつも遅れて来るんですけど、先に行けないんです」
「いじめを助けてくれた恩があるから、つきあって遅れてるって言いたいのか?」
「はい」
「考え違えをするな!」
 いつも穏やかな先生が、厳しい声を投げかけてきた。
「美津枝、君は大きな考え違えをしているぞ。綾野が君を助けてくれた。これはありがたいことだ。しかし、時間を守るということは、子どもも大人も関係なく大切なことじゃないのか。それに、自分はいつも待たされていると言ったが、それはどうなのかな。言い訳を作っているんじゃないか。友達ならやれることがあるんじゃないか」
「自分というものをしっかりとみつめなさい」
(自分というものをしっかりとみつめなさい)
そのことばが美津枝の頭から離れなかった。
「ね、すっごく怒られた?先生カンカン?」 綾野はしきりに先生のことを気にして聞いてきたが、美津枝は「ん?ん~まぁ~」とあやふやにしか答えられなかった。
 
 美津枝に自分の気持ちを正直に言ったらどうなるんだろう・・・・・・。
もう友達じゃなくなるのかな。でも、遅刻はなくなる。
(自分というものをしっかりとみつめなさい) どうしよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?