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連載小説「戊辰鳥 後を濁さず」

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土木業界を離れることとなったため、今までの仕事の経験をもとに初めて小説を書きました。 全85話で完結。約55000字となりました。街から文学が生まれるのではなく、街づくり文学を目…
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#市役所

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ 戊辰鳥 後を濁さず ―つちのえたつとり あとをにごさず― 第一部「釜場」 三月十五日(金)  農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。  表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。  医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税として多額のキャッシュを用意しなければならない。そのため、ボロアパートを解体し、そ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第11話

三月二十五日(月)  環境対策課の職員は下まつ毛が長い。パシパシとまばたきをしながら奥歯ですり潰すようにあれこれボヤいている。まるでラクダだ。  別件の帰りに車を走らせながら様子を見るつもりだったラクダは、たまたま私と目があってしまったので、降りて来たらしい。水質成分分析は専門機関の職員に既にサンプルを採取してもらっており、結果は一週間後になることを伝えたら、今回は正式に来たわけではないので詳しくは聞かないと言われた。  ラクダは中和装置の中を覗きながら、 「ゾウ山だっ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第62話

六月四日(火)  処理するだと!  処理するとは、なんだ!  お前たちは知らないだろうが、  このことに責任を感じて、人が一人死んだんだ!  残された人の気持ちもわからないで!  それを処理するだと!  といった気迫で、 「今日はお引き取りください。  トキさんも最近友人を亡くしまして、今はちょっと。  そのことも考えてあげてください。」  ジンベエザメは、冷静にそう言った。  市役所の職員たちは、そうとは知りませんでした。突然来て申し訳ありません。出直します。と言

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第66話

六月二十一日(金)  市役所の人たちが来た。  そうだ。モグラの死を理由に追い返しておいて、自分から市役所に行ったんだ。市役所も私と話をしていい。そう判断したんだろう。と思ったら、カピバラ市ではなく横浜市だった。 「横浜市交通局のものです。こちらは、JR東日本、JR東海、相鉄線つまり相模鉄道の職員と、トラ急電鉄の職員です。」と、おっしゃった。  続けて、トラ急電鉄の職員が喋り出した。 「トキさん、この度の塩害による被害、大変でしたね。心身ともにお疲れでしょうが、私た