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連載小説「戊辰鳥 後を濁さず」

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土木業界を離れることとなったため、今までの仕事の経験をもとに初めて小説を書きました。 全85話で完結。約55000字となりました。街から文学が生まれるのではなく、街づくり文学を目…
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#民泊

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ 戊辰鳥 後を濁さず ―つちのえたつとり あとをにごさず― 第一部「釜場」 三月十五日(金)  農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。  表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。  医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税として多額のキャッシュを用意しなければならない。そのため、ボロアパートを解体し、そ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第28話

四月十一日(木) 「だからこその民泊なんだよ。」  そう言って、どうだ最新の強いスマホは。といった感じで堂々と、モグラは神奈川県のホームページを見せてくれた。  なるほど、農業用水路にそのまま垂れ流せば問題になるが、あえて露天風呂にし、民泊を営むことで、お金を生み出しつつ、法律の穴を抜けていく。と、そういう算段だ。  モグラにしては抜けがない。  今は、MMに三つあるという塔の一つを目指す旅の途中だ。相鉄線に乗ったら、ワラビーに登録しようとモグラが言ってくる。一度決

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第31話

四月十五日(月)  昨日の夜、男性から電話があった。  初めての宿泊の予約だった。保険福祉事務所秦野センターで情報を得たらしい。二名一室での予約だったため、二階の南西向きのベランダが付いている一番大きい部屋を準備した。  どんな方が来るのかと待っていたら、現れたのはオフィスカジュアルといった装いの三十歳くらいの方だった。一人で十九時ごろに現れ、キッチンを貸してくださいと言ってきた。了承すると、そのまま丁寧にテキパキと料理を作り始め、それが完成したくらいのタイミングで、こ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第35話

四月十九日(金)  二階の三部屋目。つまり、今朝まで新婚夫婦が泊まっていた部屋を掃除している。これで全ての部屋を掃除できたが、宿泊者は、またジンベエザメのみと戻ってしまった。  近年は、働き方改革の浸透やコロナで外出自粛を余儀なくされたことで、急速にテレワークの仕組みが発達した。そのおかげで、自由な働き方ができるし、住む場所を自由に選択できる時代となった。  住んでみて嫌であれば出ていけばいい。  そう。あの人のように。  思い出したくもないし、土地のせいには断じてし

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第36話

四月二十日(土)  今日は札幌戦だ。  いつもはゴールに近いちょっとだけリッチな席で見ているが、今日は、これから宿泊するお客様をもてなすんだからと、メインスタンドの一番リッチな席での観戦だ。  リッチと言っても、収容人数が一万五千人程度のスタジアムだ。いつもより角度的には見やすくなったが、高さ的には陸上のトラックもあるしで、遠路はるばるいらしたお客様には悪い気がする。試合が始まっても、席はまばらと言えばまばらだし、観客数から考えてもこの程度がちょうどいいとも言えるが、あ