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連載小説「戊辰鳥 後を濁さず」

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土木業界を離れることとなったため、今までの仕事の経験をもとに初めて小説を書きました。 全85話で完結。約55000字となりました。街から文学が生まれるのではなく、街づくり文学を目…
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#ターミナル

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ 戊辰鳥 後を濁さず ―つちのえたつとり あとをにごさず― 第一部「釜場」 三月十五日(金)  農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。  表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。  医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税として多額のキャッシュを用意しなければならない。そのため、ボロアパートを解体し、そ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第66話

六月二十一日(金)  市役所の人たちが来た。  そうだ。モグラの死を理由に追い返しておいて、自分から市役所に行ったんだ。市役所も私と話をしていい。そう判断したんだろう。と思ったら、カピバラ市ではなく横浜市だった。 「横浜市交通局のものです。こちらは、JR東日本、JR東海、相鉄線つまり相模鉄道の職員と、トラ急電鉄の職員です。」と、おっしゃった。  続けて、トラ急電鉄の職員が喋り出した。 「トキさん、この度の塩害による被害、大変でしたね。心身ともにお疲れでしょうが、私た

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第67話

六月二十一日(金)  トラ急電鉄の職員であるシマエナガに似た女性が続ける。 「トキさん、続けてよろしいですか。  新百合ヶ丘駅には、お越しになったことありますか。新百合ヶ丘駅はトラ急小田原線のほかにトラ急多摩線も接続しています。今回の新ターミナル駅の構想も新百合ヶ丘駅のような構造を目指していまして、そうです。  ホームが三つ必要になるんです。それに加えてホームにそれぞれ二本の線路が必要になり、最低でも六本の線路が並ぶスペースが必要になります。今のカピバラ駅にはそのような

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第68話

六月二十一日(金) 「トキさん、すみません。長々とこちらの考えるメリットの部分だけ話してしまって。  結論を申し上げていませんでした。  このターミナルを起点とした線路は、東海道新幹線とJR相模線の新駅である倉見駅を目指します。そして倉見駅を通過して湘南台駅へと接続します。湘南台駅はトラ急江ノ島線。相鉄いずみ野線、横浜市営地下鉄ブルーラインが接続する駅です。そのため、今日はこれだけの人数で伺っております。トキさんはトラ急線のみが関係しますので、今後は私のみが伺うことになると