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連載小説「戊辰鳥 後を濁さず」

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土木業界を離れることとなったため、今までの仕事の経験をもとに初めて小説を書きました。 全85話で完結。約55000字となりました。街から文学が生まれるのではなく、街づくり文学を目…
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#計画

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ 戊辰鳥 後を濁さず ―つちのえたつとり あとをにごさず― 第一部「釜場」 三月十五日(金)  農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。  表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。  医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税として多額のキャッシュを用意しなければならない。そのため、ボロアパートを解体し、そ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第75話

七月十三日(土)  だが、この線を辿ると、電車が小田原厚木道路と垂直に交差するようになっている。電車と道路が合流したその先には、ブタ川だってある。どうするつもりだろう。 「それは、これから考えるんだ。これからの話だ。  橋だってトンネルだってなんだっていい。  新東名高速道路もカピバラ市の区間でそれをやってのけたんだ。  それを参考にして、自分の考えを持ってこれからのことを考えよう。  シマエナガさんにぶつけてみよう。」  すごい。  ジンベエザメは、室町時代に江戸城を

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第77話

八月三日(土)  新国立競技場の建設作業に携わっていた若い男性が過労で自殺していることをシマエナガさんは話してくれた。 「あれは、現場の問題ではありません。実際の現場の惨状は知りませんが、どう考えても計画の問題です。」と、シマエナガさんは言う。そして、それ以上は言わなかった。 「技術の結晶は、現場に現れます。  私も現場で働きたいです。  しかし、女性である以上、それはなかなか難しい。  だから現場のことを思って計画したい。  私の担当する計画で、こんなことは起こさない

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第81話

八月二十六日(月)  クロヒョウが「調査費用を調達できた!」と、嬉しそうにやってきた。  だが私は、最近のことを整理したかった。  なので、「田んぼのあたりを歩かないか。」と、クロヒョウを誘った。   稲は所々黄色に染まり、収穫の段階へ移りつつあることを告げている。  もたげだした穂先が風にゆれ、キラキラと西日に輝いている。  洗いざらい話をした。  下水排水費用で、資金がそろそろマイナスへと転じること。  それを補填するには、新ターミナル駅構想に同意し、土地を売る