中井久夫『「伝える」ことと「伝わる」こと 中井久夫コレクション』

長短二二編の論文とエッセイなどを収録。
今回も読書ノートとして書く。
この本を手に取ったのは、『現代思想 2022年12月臨時増刊号 総特集◎中井久夫』を読んで、この本に「禁煙の方法についてーー私的マニュアルより」が収録されていることを知ったからだ。
中井先生が自ら体験した「禁煙の方法」、禁煙にかけてはすっかりベテランの僕も、なんだかそそられるではないか。/

今僕が吸っているタバコの値段は500円。
二日で一箱ほどの本数だが、それでも喉に痰がからんでわずらわしい。
やめようと思ったことは数しれず、以前、六ヶ月ほどやめていたこともある。
それでも、やめられないのはなぜか?
ときどき、名案が浮かぶ。
今現在、一日あたり250円もタバコに費やしている。
これをやめれば、一ヶ月に7500円も節約できる。
ということで、今日からタバコをやめるからといって、7500円の本を買う。
一晩寝て起きたときの、朝の一服がたまらない。/


「禁煙の方法についてーー私的マニュアルより」:
【禁煙を機に今まで買いたくて買えなかったものを自分に買うのを許すことが報酬になる。】

先生、もうすでに買ってしまっている場合は、どうしたらいいんでしょうか?

【ヤマは、二日目の後半に来る。

ー中略ー

二日目の夜がヤマであって、とにかくその夜を歯を食いしばって通りすぎれば、第一の関門は通過したことになる(略)、一週間をすぎれば大分楽になり、後はなだらかな下り坂といってよい(略)】/

【タバコがのみたくてしかたがないという、喫煙衝動の高まりは、いつもでなく、間をおいてとびとびに起こるということ、しかし、三分間がまんすれば、自然に引いていくということ、だが、この三分間は非常に長く感じられるということ】

三分間待つのだぞ!/


「絵画療法の実際」:
【一枚の絵から引き出す解釈は、恣意的な解釈になりやすい。患者とその生育史、状況についての知識が深まれば深まる程、われわれは一枚の絵から多く、そして確実なものを汲み取りうる。】/


「私の日本語作法」:
【(ニ)私の作文順序 
私は①思いつきをそのへんの紙に書き付けて袋に入れる(略)。②この紙片を床に(略)並べて順序や配置を決めます。③それをフローチャートに書きます。④関係のあることは線で結び、付け加えることは、(略)(ブレインストーミング式に)書き添えます。⑤それを文章(略)にどう並べるかを考えます。⑥何を主題とするかを再吟味します。枝葉を容赦なく切り捨てます。】/

E(エクリチュール)を構成する方法として、神さまにとりつかれたように一気に書く「神がかり法」、章、節、小見出しと決めてから書く「純粋構成法」と比較して、あっちを塗りこっちを塗り、下塗りし、削り、上塗りし、修正し、仕上げる「油絵法」を推奨している。

「油絵法」について(しないほうがよいこと):
①最初から完璧な文章を書こうとすること。
②序文から書くこと。
③最初から独創的な文体で書こうとすること。
④センテンスの途中で主語を、パラグラフの途中で主題を変えること。/


「翻訳に日本語らしさを出すにはーー私見」:
(七)「‥‥‥は、‥‥‥は」と「は」が二度続く時は、最初の「は」を「には」に替えるとよい。
(九)「‥‥‥して、‥‥‥して」と続くのは違和感がある。「‥‥‥し、‥‥‥し、‥‥‥し」と続け、最後だけ「‥‥‥して」とするとよい。
(一〇)文章を並べてゆく時の接続詞の順序は、「また」「なお」「さらに」の順序である。
(一一)「こと」が一つの文章に二つあると違和感が生じる。「の」などで置き換えた方がよい。
(三四)定冠詞の代わりに「 」、〈 〉あるいは「ということ」を使い、関係代名詞の欠如を「ーー‥‥‥ーー」「(‥‥‥)」で代用できる。
(三五)ものの成り行きや仕事の手順は、読んで目に浮かぶ順、頭の中で組み立てられる順、ビデオにとれるように。/

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