アニエス・ヴァルダ監督『落穂拾い』

アニエス・ヴァルダのドキュメンタリーは面白い。
まだ、『ダゲール街の人々』と本作しか観ていないが、目線がとてもいい。
対象への愛がある。
もちろん、ストーリーはないが、それでも十分面白い。
必ずしも、いつもストーリーが必要というわけではないのではないか?
ストーリーがなくとも楽しめるものはたくさんある。
たとえば、植物や、昆虫、鉱物、化石などの標本のようなもの。
切手や何かのコレクションのようなもの。/

ジャガイモなどの野菜や、リンゴやブドウなどの果物を、収穫が終わった畑に拾いに来る人々。
フランスでは、収穫が終わった後の畑では、日の出から日没までの間は、畑に残された作物を拾うことが許されている。/


生物学を学び修士課程を出て新聞売りをしている男。
菜食主義者の彼は、商いの終わった市場(朝市)でパセリなどの野菜を拾って食べている。
パンは、一日の営業を終えたパン屋のゴミ箱から。
そして、夜はボランティアで移民たちにフランス語を教えている。
教室は笑い声に溢れ、ほんとうに楽しそうだ。/


ふと思う。
なんだか彼らの姿は僕に似ている。
僕も、誰も見向きもしなくなった本を読み、言葉を拾って生きている。
現在、売り出し中の作品にはほとんど見向きもしない。
ゴミとは言わないが、ほぼ忘れられた作品の方を好む習性がある。
つまり、棄てられたものを拾って生きている。
僕も「落穂拾い」だったのだ。
こいつは「永久保存版」かもしれない。

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