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🥃西瓜糖な夜

日記帳を新調してから、ついついそちらに言葉を紡いでばかりでインターネットから足が遠のいてしまっていた。

これからは色々書いていけたらなと思っているので、おいしいおやつでもかじりながら読んでくれたら嬉しいです。

(ちなみに、新しい日記帳は近所の文房具屋さんで見つけた、LIFEの分厚いリングノート🗒
わたしは長らくの間うすピンク信者だったのだけれど、最近はこっくりとしたブルーもすき)


さてさて、去年の夏にはじめて飲みに出かけてからというもの、不思議なほどに心を掴まれてしまったゴールデン街の話をしようと思う。


新宿ゴールデン街。
その言葉のもつ芳醇な香りに、激しく胸をこがす人も多いのではないだろうか。
そこは、大人たちが夜な夜なお酒を酌み交わしにやってくる、昭和の集いの場。

文化的感度の高い酒好きの居場所、とは言いすぎかもしれないけれど、ゴールデン街には、ただの古い呑み屋街にはない、独特の空気があると思う。

渋谷にものんべい横丁というレトロな通りがあって酒好きの友人と何度か飲みに出かけたことがあけれど、ゴールデン街のそれとは、確実になにかが違う。
言葉で形容するにはあまりに感覚的な、なにかが。

そのなにかについて考えていると、ふと、それはなつかしさに似ただったのかもしれない、という思いが、ふつふつと湧きあがってきた。
それも、あまりに個人的ななつかしさ。

はじめてゴールデン街に足を踏みいれたとき、その場所に漂う匂いに、言いようのない安心感を感じた。
しゃがれた街の匂い。お酒に酔ったサラリーマンのしめったスーツの匂いや、煮こみ料理をあたためなおす匂い、古い家屋の匂い。

まるで、この場所でお酒をのむために今日までお酒をたしなんできたのかもしれない、と錯覚するほどの、強烈な感情が胸にこみ上げてきたのを思い出す。

今になって思い返してみると、もしかしたらそれは、街を感じながら無意識のうちに祖父母の姿を反芻していたからかもしれない。

わたしの祖父母の家は、ゴールデン街から歩いて数分先にあった。
子どもの頃、祖父母の家に向かう途中に現れる日中のがらんどうなゴールデン街を眺めるたびに、なんだか見てはいけないものを見てしまったような気持ちになったのを思い出す。

昼の光が照らすゴールデン街の薄汚れた道は、確実にわたしのテリトリーではなく、大人たちの(当時のわたしからするとお年寄りの)ものだった。
だから、ハタチをすぎてお酒の魅力にどっぷりはまってからも、なんとなくゴールデン街には足を踏み入れる勇気がなかったのだと思う。


そんな昔の感情もすっかり忘れて、緊張しながらゴールデン街デビューをしたのは、大学院生になってからだった。
インターン先で知り合った憧れのはくるさんに会うべく、どきどきしながら西瓜糖の扉を開けた瞬間を思いだす。
ちょうど初秋だったこともあり、金木犀を白ワインにつけた桂花陳酒のソーダ割りを作っていただいた。
鼻を抜ける金木犀の香り。
ゴールデン街でのむ、はじめてのお酒になった。
そして、あの空間でいただくお酒のおいしいことおいしいこと。
のむ空間によってお酒は大きく味を変えるけれど、ゴールデン街でのむお酒って、ほんとうにおいしい。

数畳のこじんまりとした店内に、みっちりと、人がすし詰めになりながらお酒を酌み交わす。その熱気で額が汗ばむ。
気がつくと、友人もわたしも、お互い他のお客さんとの会話に夢中になっていた。
当時、上映されたばかりだった『JOKER』の話からはじまり、ヒース・レジャーの怪演、映画『TAXI DRIVER』の狂気的なラストシーンまでを、知らないおじさんと語り合った。

西瓜糖にやってきた人には、確実に共通言語があるような気がする。はじめましての人たちとおいしいお酒片手に、落ち着いて会話を楽しむことができた。
時間が過ぎるのはあっという間で、「ゴールデン街、いい街だ!大好きだ!」なんて思いながら、ごきげんで帰路についた。
その日から、ゴールデン街には何度も足を運んでいる。




一昨昨年に祖父が、そして一昨年祖母が、立てつづけに亡くなった。
わたしがゴールデン街の魅力に気づいたのが去年の夏なので、結局、わたしが彼らにゴールデン街の話をすることはなかった。
もしも二人が今も生きていたら、彼らの若い頃のゴールデン街の話を聞きたかった。
酒好きの祖父のことだから、もしかしたら行きつけのお店を教えてくれたかもしれないし、元気な頃だったら一緒に飲みにだって行けたかもしれない。

祖父が小さなグラスにいれられたビールをおいしそうに飲んでいる姿を想像して、ふと、涙がこぼれ落ちそうになる。

ゴールデン街に出かけるたびに、今後もわたしは祖父母を思い出すだろう。
わたしを見つめるやさしい目や、骨ばった手のぬくもりなんかを。彼らはもうこの世にはいないけれど、あの場所には、どうしてだか彼らの断片が漂っている気がするのだ。
おいしいお酒に舌鼓をうつ狭間に、彼らの息を感じることができる。

また、彼らに会いにいこう、新宿ゴールデン街へ。


↑友人は瓶ビールを注文して、タッチのグラスについでもらっていた。かわいい。


↑ばるぼら屋は、料理がおいしいお店。
女友だちと3人でラブホテルに泊まり、夜通しゴールデン街で遊ぶ会を開催した深夜に食べたやきそば、ほんとうにおいしかったな…
麺はもちもち、キャベツはほどよく火が通っていて…。
酒戦の前に、またここで腹ごしらえをしたいな。






 



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