見出し画像

骨折の記④

 028

 「平林さん、素晴らしいです。これなら手術は必要ありません!」
 画面に映し出されたレントゲン写真を見ながら、整形外科医氏はいささか大げさかつ丁寧にそう言った。
 彼はたぶんそういう患者対応を基本姿勢とする医師なのだと思うのだけれど、言われた通りきちんと固定して(不自由な)週末を過ごしたので、褒められると「引き続きやっていくぞ」という気になるのも正直なところである。

 いったい、医師も人間であるからいろんなタイプがいるわけだが、僕は自分が下手くそなくせに、患者への共感を欠く医師が苦手である。
 前に通っていた歯医者は、やたらと怒られるので、たぶん腕は悪くないのだが行くのをやめてしまった。「また怒られるのか……」と思うと、足が遠のくものである。
 いま通っているところは、めちゃくちゃ腕がいいわけでもないであろう「町の歯医者」といった趣のところだが、優しく説明はしてくれても患者を怒りはしない。ゆえに通い続けることができる。
 医師の仕事に「根治、あるいは寛解まで通院を続けてもらう」が入るのであれば、誰彼構わず毎度のように患者を叱るのは考えものであろう。

 そんなわけで、やたらと褒めてくれる整形外科医氏を僕はリスペクトすることにした。
 氏の言いて曰く、「耳鼻科で処方されていた痛み止めが切れますから、新しく処方しましょう」、「是非この調子で固定を続けてください。また来週、診察させてください」。
 つまり、「やっていきましょう」ということであろう。

 仄聞するところでは、リハビリはそれなりに痛いという。
 しかし、この先生であれば多少痛くても僕はちゃんと通うだろうし、我慢もするだろうと思った。

 調剤薬局で痛み止め(と胃薬)を受け取り、そのまま居酒屋に入って肉肉しいランチを食する。
 カルシウムはもちろん、リハビリまでに少しでも筋肉を落とさぬよう、タンパク質もきっちり摂取せねばならぬ。
 患者に治ろうという気を起こさせる医師は、蓋し良医であろう。

【続く】

(これより下に文章はありません)

ここから先は

0字

¥ 100

サポートは僕の生存のために使わせていただきます。借金の返済とか……。