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骨折の記①

 024

 2019年3月1日夜、僕は自転車で転倒して右肩(正確には上腕骨だが、ほぼ肩だ)を骨折した。自損事故である。

 その日は急いでいた。僕が自宅から会社(志学社)に通勤する途中には外環道があり、開通したとはいえあちこちでまだ工事をやっている。
 転倒したのも、そういった毎週のように様子が変わる道路であった。自転車のライトは自動点灯だが、鬱病になってから注意欠陥がひどくなっている自覚もあったし、もっと気をつけるべきであった(そういうことができる人は注意欠陥にはならない)。

 縁石か、小石を踏んでバランスを崩した。慌ててスピードを落とそうとしたが、おそらく利き手である右のブレーキを先に引いたのだと思う。
 倒れる──と思ったとき、僕は自転車に足が絡まったまま転倒するより、身を投げ出して受け身を取る方がいいと判断し、それを実行した。
 しかし、残念ながら背中にはリュックを背負っており、受け身をうまく取ることができなかった37歳目前のおっさんの身体は、右肩からべしゃりと車道に打ちつけられた。

 やっちまった──。

 道路に横たわって、僕はそう思った。身体がひどく痺れている。半身を起こそうとしたが、うまくいかない。
 何台もの車や自転車、幾人もの歩行者が、素通りしていった。
 ピザ屋の若者が声をかけてくれるまで、5分か、せいぜい10分ほどだったと思うが、「世知辛いもんだなぁ……」と思った。
 僕に声をかけて、倒れていた自転車を路肩に立てかけてくれたのは、ピザーラ(記憶に間違いがなければ)で働く若者であった。
「まじで動けなかったら、救急車呼んで病院行った方がいいっすよ」
 そう言い残して、彼はバイクにまたがって去っていった。僕のせいで配達に遅れて、料金がタダになってお店に怒られたりしなければいいな、と思いつつ、打撲のショックからくる貧血で、僕はまた路地に横たわった。

 何台もの車や自転車、そして幾人もの歩行者が無情に通り過ぎていく。こうしていても仕方がない。

 動く左腕で体をまさぐってみる。おそらく膝は擦りむいてはいるが、打撲は大したことがない。腰はほぼ打っていない。肩も痛いが回るので脱臼はない。触った感じ、明らかに折れている箇所もなさそうである。しばらくすれば歩けるようにはなるだろうから、家には自力で帰れる。ただ、動けない今のうちに、公共サービスに頼ろう。
 寝そべったまま、僕は市の救病診療所に電話をかけた。そうして、今日は整形外科の先生がいないこと、朝までやっている市内の整形外科が三つあるがいずれも遠いことなど、丁寧に教えてもらった。

 そうこうしているうちに、貧血がおさまって立てるようになった。僕は、転倒したその自転車に乗って、ひとまず自宅に帰ることにした。

【続く】

(これより下に文章はありません)

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