骨折の記②
025
「平林さん、あなたは本当に我慢強いかたなんですねぇ」
レントゲン写真を眺めながら、整形外科医氏は言った。
「残念ながら、骨折しています」
診断結果は、上腕骨嵌入骨折で、全治4週間とのことであった。
さて、時間は前回の続き、帰宅後に遡る。
帰宅した僕は、打撲の際の応急処置であるICEを行った。
簡単に言うと、氷水や保冷剤等で冷やす、包帯などで適度な圧迫を加える、患部を心臓より高い位置に置く、の3つである。
幸いなことに釣りが趣味なので(しばらく行けなくなった)保冷剤はゴマンとある。手ぬぐいも沢山持っているし、左を下にしていれば、右肩は心臓より上にくる。
このICEは、痛みに慣れているとはいえ、「打撲だろう」と勘違いさせる程度に効いている実感があった。
湯船に浸かって身体を温めることもあまりよくないので、その日は風呂には入らず、身体を洗顔シートで拭くにとどめ、副鼻腔炎で処方されている痛み止めを飲み、湿布を貼り、眠剤を入れて寝た。
そして、時間は冒頭に戻る。
最寄りの整形外科(整形外科というのはどこも混む)でことの経緯を説明し、「おそらく打撲だと思うのですが、念のため肩のレントゲン写真を撮っていただけますか」とお願いしたところ、とても優しく感じのよい整形外科医氏はその通りにしてくれた。
結果は立派な(?)骨折であったということだ。
どうも、普通の人なら夜間診療している整形外科に駆け込んでもおかしくないようなケースらしいが、いくつかの要因が僕をそうさせなかった。
まずは、「打撲だろう」という思い込みがあったこと。そして、初期の応急措置がそれなりに適切で、症状が緩和されたこと。また、痛み止めと眠剤を処方されていたことと、痛みに鈍感になっていることも大きかった。
これは実のところ、いい面と悪い面があった。
整形外科医氏の言いて曰く、「この折れている骨が、上の方にズレていくということになると、固定のために手術をすることになります」。
要は、「念のため」のレントゲンをサボっていたら、僕はこの状況を把握できず、無理をして右腕を使って、悪化させていた可能性も充分にある。
そうなれば、もっと痛い思いをし、もっと治癒に時間がかかり、そしてお金も出ていくことになったはずだ。
自己診断は自己診断で、正しい知識に基づいていれば一定の意味はある(打撲の応急処置がそれだ)。
しかし、病気や怪我というものは、やはりきちんと専門家に診てもらい、適切な治療方針を示してもらい、それに従うべきであると強く感じた。
「ひとまず固定して様子をみます。週明けに骨がずれていないといいですね。生活がしばらくご不便になりますが、どうかおだいじに」
──いやいや、完全に僕の不注意が起こした怪我である。そんな優しい言葉をかけてくれなくてもいいのに。
そんなことを思いつつ、看護師さんに三角筋と固定用のバンドを巻いてもらい、左手でゆっくりと精算を済ませて僕は整形外科を後にした。
当面の生活と仕事、どうしよう……。
【続く】
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