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生き残る音楽アーティストは結局ファンに何を売っているのか

どうもマットです。

今日は音楽アーティストは何を売っているのかという事について。


▼はじめに


音楽アーティストは何を売っているのか?

まだ僕がバンドマンだった頃は深く考えた事がありませんでした。
CD(音楽)が売れて、その中からライブに行ってみたいって人にライブ(体験)を売るという認識。


この疑問に向き合ったきっかけは、自分でレーベルを始めて数年経ってから。年々CD売り上げが下がっていき、CDショップの売り上げを路上・ライブでの売り上げが上回り始めた頃思ったんです。

なんで同じCD(音楽)なのにCDショップでは売れず、路上・ライブでは売れるのか。僕らが売っているモノって何?って。


音楽にまつわるお仕事は沢山あるのですが
DIYアーティスト、インディーアーティスト自身が表立って行う表現活動においての主な収入源はライブ収益とCDを含めたファングッズ収益です。


ただ、このライブ収益とファングッズの収益と言うのは結果であり
何故ライブに来てくれるのか?何故グッズを買ってくれるのか?という消費行動の理由はファンによって異なるんです。


アーティスト自身が自分達は何を売っているのか?を理解する事で
逆算して何を発信したらいいのか・どういう見せ方・動き方をすればいいのか等の筋道を立てる事が出来ます。

逆にこれを押さえておかなければ
広告打っても、バズっても、メジャーデビューしても、タイアップなどで認知が広まっても継続的な活動をしていくのは難しいのかなと思います。


というわけで専門家では無いので、あくまで色んなアーティストのファンとお話し、実際に現場で触れ合う中で感じる事をベースに、ファンはアーティストの何にお金を払っているのか?という事について書いていきたいと思います。


▼音楽アーティストは結局何を売っているのか


1、音楽を売っている(商品コンテンツ)


これはそもそもの大前提です。
音楽がリスナーの心を強く揺さぶり熱狂を生み出す。

長くアーティスト活動を追ってくれるファンを増やすには、ファンの期待を越える音楽を作り続け、このアーティストはいつも自分の琴線を揺さぶる音楽を提供してくれるという信頼関係を作るのが大事だなと思います。

現在音楽ファンはサブスクに移行しているので、CDを買ってくれるのは形として所持しておきたい人とコレクターが中心だと思います。

あとは僕のように音楽に携わっていたり、CDが売れないと厳しいという内情を理解し、良い音楽を鳴らしてくれたことへの感謝、お礼として買ってくれる人もいるのかな。


最近のニュースで、CDの販売枚数が17年ぶりに増加と書かれてましたが、ボーナストラックを収録したり、Tシャツ・フォトカード・ポストカード・ポスターを同梱してあることもあり、あくまでファングッズとしての位置づけですね。音楽を聴く為の機能商品として売るのは音楽が評価されるだけでは難しいなと。


音楽で勝負したいと思うDIY、インディーアーティストにおいては以前書いたとおり、ファンとの信頼関係を築き、長く活動を追ってくれるファンを掴む事。アルゴリズムを攻略したり、多くのプレイリストに入り続ける事を狙う必要があります。


2、エンタメ・パフォーマンス・体験を売っている(商品コンテンツ)


好きなアーティストの生の演奏、生のパフォーマンス、ライブ演出、MC、アーティストとの距離感、同じ時間を同じ場所で共有できる喜び。

アーティストは音源だけでは味わえない様々な体験をライブという形で提供しています。


というわけで、ここまでが音楽という商品コンテンツを売るという側面です。

この商品コンテンツは趣味や娯楽であり、どんな素晴らしいコンテンツでも時間の経過とともに徐々に熱が薄まっていきます。

子供の頃にあんなに夢中でやったゲームをしなくなったり、あんなに熱中していた車いじりをいつしかしなくなったりするのと同じです。

もちろんそれは個人差があり、長くアーティスト活動を追ってくれるコアな音楽ファンも一定数いるので一概には言えませんが、リスナーの性分や時間経過に伴う状況・環境の変化も関係してくるので、どれだけ良いコンテンツであってもファンの熱量をコントロールするのは難しいなと思ってます。

また、次の項目でも書いてますが、若い頃は音楽を聴いてたのに大人になると音楽を聴かなくなると言われます。これは音楽がファッションと言われるように顕示消費としての側面がある事も関係してます。

若い頃は、自己のアイデンティティーを表現する方法が限られており、一番手っ取り早く分かりやすいのがファッションと音楽の趣向で自己主張を行う事です。これにより自分がどういう個性を持っているのかを知って貰い、同じ属性の友達が作り易かったり、コミュニティに入り易くなります。

それが大人になると自己顕示する為の要素が増えていきます。〇〇という企業で働いてるとか、弁護士してますとか、〇〇のパパ・ママですとか。若い頃買えなかった車や腕時計、ブランド品などで自己顕示出来るようになります。これにより顕示消費としての音楽は聴かれなくなり、本当に音楽が好きなリスナーだけが残るという事です。


では、時間が経ってもライブ集客出来たり、長く愛され続けているアーティストが売っているものは何なのか?について書いていきます。 



3、アイデンティティを売っている(自己顕示・存在証明・承認欲求を満たすアイコン)


人は誰しも個人として認められ、重要な人物だと思われ好かれたい・感謝されたいという欲求を持っています。俗にいう「何者かになりたい」です。

アーティストはファンの自己顕示・存在証明や承認欲求を満たすための自己主張アイコンであるという役目も担ってます。


アーティストの楽曲・ファッション・パフォーマンスなどの表現を通して伝わる世界観、ビジュアル、発言による価値観、活動コンセプト・ビジョンなどを通した生き方、行動(アティテュード)が広く多くの人に認知され

強烈な感動・熱狂、憧れ、リスペクトが生まれる事(付加価値・ブランディング)により、ファンは自己顕示や自己主張をアーティストを通して行うようになります。


私このアーティストが好きです!という発言や、アーティストグッズを身に着けたり、アーティストのプロデュースしたアパレルを身に着けたり、車にステッカーを貼ったりする行為は

よくSNSで見かける自分診断を投稿するのと一緒で「私はこんな性格でこんな事に興味を持ち、こんな価値観を持っている人間なんです。知ってください!」と言う自己顕示・承認欲求を満たすための行為です。


アーティストブランディングを行う事で、アーティストグッズが売れるようになります。


4、コミュニティー、心の居場所を売っている(所属欲を満たしている)


人は社会生活の中で、孤独から解放され、安心感を得るためにどこかのグループに所属したいと考えてます。
所属欲とは、誇れるメンバーシップの一員でいたい・敬愛する人・同じ感性を持つ仲間と繋がりたい、一緒にいたいという欲求です。

学生時代から社会人生活まで、スポーツ出来たり、話が面白かったり、楽器が出来たり、歌が上手かったり、コミュニケーション能力が高かったり等の
際立つ個性があればいいのですが

コミュニティーにおいて何らかの個性やキャラクターがなければ、友達が出来ない・集団の中で埋もれて存在感を保てなくなります。

僕自身、学生時代は何の取り柄もなく孤独と疎外感を感じてましたが、音楽を始めた事によってコミュニティーが広がって居場所を作る事が出来ました。

スシローペロペロ事件も同じで、恐らく一人でご飯食べに行ってたら、あんな迷惑行為をしてなかったと思うし、仲間のコミュニティーの中で、こいつ連れていけば何か面白い!という悪乗りキャラでいる事が自分の居場所を作っていると潜在的に自覚してたんだと個人的には思います。


ファンはアーティストを中心としたコミュニティーに入る事(ライブなどへの参加や応援、ファン同士の繋がり)やアーティストグッズを所有する事で所属欲を満たしています。

ファン同士の横の繫がりが出来、互いに認知し合う事で所属欲がさらに満たされます。

アーティストを中心としたコミュニティーの構築により、アーティストはファン同士が集える場所、心の居場所を作る事でファンの所属欲を満たしています。

アーティストの想いや価値観、活動ビジョンなどがファンに共有されることで関係性が深くなり、コミュニティーの結束は強くなります。


●所属感を得たい・実感したい

●コミュニティーの仲間意識を高める

●同じコミュニティーの仲間と繋がりたいというアプローチ

●バンドの世界観・価値観などに共感する個性を持った人間であると自己主張したい

このような要因で、ライブ集客や身に着ける、携帯出来るグッズ、車に貼るステッカーなどが売れるようになります。



5、疑似恋愛の対象(承認欲求)


ジャニオタの方に出会った時は色々と研究目的でお話伺うようにしているのですが、ライブに毎回参加し、良い席を取る為に時間とお金を惜しまないファンの心理としては

好きな人を生で見たい、好きな人と同じ空間で同じ時間を過ごしたいという心理以上に、圧倒的な行動の熱量を生み出す要素が承認欲求でした。


お話聞いた何人ものファンの方が「今日、推しと5回以上目が合った」などと喜んでおり、ありがとうや愛してるという言葉が自分だけに向けられた言葉であると思い込む事で承認欲求を満たしています。

人は誰しも個人として認められ、重要な人物だと思われ感謝されたいという承認欲求を持っていますが、この欲求が最大に満たされるのは好きな人や尊敬する人(自分が格上だと認識する人)から重要な人物だと認知され感謝された時である為、それを実感する為に目が合う距離間の席をどうしてもゲットする必要があるし、それが熱量の高い行動を生むんだなと。
握手券としてCDが売れるのも同じ心理です。


ここではライブ集客の他に

●握手券としてのグッズ購入(実際に触れあいたい・応援を直に伝えたい・応援してる事を認知され感謝されたい)、写真・映像などビジュアルに関したグッズも売れる。

●好きなアーティストのグッズに囲まれたい、収集したいという収集購入。

●好きなアーティストの目標を応援する事で感謝されたい応援購入。

●アーティストに重要な人物だと認知され必要とされたい、感謝されたいという理由、他のファンへのマウンティングとしてスパチャなども増える。



5、生きる意味・道しるべを売っている(自己肯定・承認欲求・心の安定)


実際に長く活動規模を落とさずに活動しているアーティストの熱心なファンの方と接して思う事は

ビジュアルが好き・人間性が好きとかそんなレベルではなくて、もっと深い何かを感じるんですよね。

一つの宗教のような、愛を求める心を保つための拠り所生きる目的・意味・道しるべを求めるというものに近い感覚があるのだと思ってます。


昔、福山雅治が結婚した時に福山ロスといった現象が起き、ファンの女性たちが体調を崩したり虚無感に襲われるというニュースがありましたが

分からない人からすれば大げさだと感じる人もいると思いますが、推しのアイドルや宗教信仰のない人でも、信じているもの・心の支え・自己のアイデンティティを保てるもの

例えば心の安定を支えている勤める会社が突然潰れるとか、お金があれば幸せだと信じている人にとってはお金の価値が突然無くなったとしたら。なんとなく喪失感が想像できるのではないでしょうか。人は何かを拠り所にして生きている。


宇佐見りんさんの『推し、燃ゆ』から拝借するとすれば

推しは命にかかわる

宇佐見りん『推し、燃ゆ』

あたしのスタンスは作品も人もまるごと解釈し続けることだった。推しの見る世界を見たかった。

宇佐見りん『推し、燃ゆ』

放送された番組はダビングして何度も観返す。溜まった言動や行動は、すべて推しという人を解釈するためにあった。

宇佐見りん『推し、燃ゆ』

推しを推すことがあたしの生活の中心で絶対で、それだけは何をおいても明確だった。中心というか背骨かな。

宇佐見りん『推し、燃ゆ』


「推し」は生活を支える「背骨」であるという言葉が一番腑に落ちた言葉でした。



6、夢や憧れを売っている(自己実現の欲求)


人は自分にしかできないことを成し遂げたい、自分らしく生きていきたいという欲求を持っています。
こんなアーティストになりたい、自分もカッコいい生き方をしたい。

ファンが憧れる目標・理想像としての存在であり続ける事で、少しでも理想に近づきたいという自己実現の為にファンはアーティストの事をより知ろうとします。


ここではライブ集客の他に

●作品のヘビロテ(サブスクやライブ映像・インタビューなどの情報すべて)

●ファングッズをはじめ同じものを身に着けたり、アーティストのプロデュースした楽器、アクセサリー、アパレルなどの購入。

●アーティストを深く知る為の自伝本なども売れます。


▼最後に


というわけで、
アーティストが長く愛されたり、長く活動を続けられる理由は
楽曲・パフォーマンス・ビジュアル・発言により

熱狂・憧れ・リスペクトされる存在になる・ちゃんとファンにそれらが伝わる(ブランデング出来る)事によりファンの強い欲求を満たし続けている為であり

イベントに集客出来たり、ファングッズが売れるというのは
商品コンテンツが売れるというより、あくまでファンの欲求を満たした結果であると言えます。

このようなファンの欲求に合わせたアーティストブランディングや見せ方・動き方についてはアーティストに合わせて具体的にアドバイスしますのでお気軽にご連絡ください。

ではまた!


お問い合わせ・ご相談は以下より

マットのTwitterよりDM

EMAILアドレス: monkeydance2007@icloud.com


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