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ケンタッキーのおじいちゃんが、私に火をつけた話

いつも行くスーパーマーケットの中に、ケンタッキーフライドチキンがある。
普段は夕方に行く買い物を、たまたま午前中に行った日のこと。

夕方は長蛇の列ができるフライドチキン店舗前、さすがに午前中から並ぶ人は少ないなあ、と思いながらふと見ると、一人のおじいちゃんが袋いっぱいのチキンを買い込んでいた。

おじいちゃんだからって偏見があるわけではない。
私自身が歳を重ね、午前中からフライドチキンを食べることはめっきり少なくなったので、元気なおじいちゃんに羨ましささえ感じて眺めていた。が、

ん?

次の瞬間! 声が出るほど驚いた。
おじいちゃん、同級生のヤっさんではないか。
しばらく会わぬ間に、なんてこった、おじいちゃんになってしまったのか。

おじいちゃんなんて思ったことが申し訳ないやら、でもどう見てもおじいちゃんであることへの驚きやらで、声もかけずに逃げるようにその場を離れた。

いやあ、ヤっさん、苦労してんのかなあ・・・。
と、まるで他人事で帰宅してから、当然の「あること」に気づいた。
そうですよ、同級生なんだから私もおばあちゃんになったのよ。
おばさんになったことは、もう受け入れざれるを得ない事実だけど、おばさんではなくお婆さんなのか・・・。

自慢じゃないけれど、私は年齢を言うと
「え〜!そんなお歳に見えな〜い、お若いですね〜!」とよく言われる。
もともと童顔で、若い頃は「可愛いより綺麗と言われたい」と思ったが、
歳をとると童顔でラッキーと感じることの方が多い。
と、今までは思っていた。

しかし、そんなゆうちょな事を言ってられない。
もう、童顔に頼れる年齢ではないのだ。

ここ数年、一番気になっている首の皺。
若い頃は童顔をカバーするために胸元の空いた服を好んで着ていたのに
今では1年中、首を匿すストールが欠かせない。
見せたくない部分は見せなければいいのだ、
いや、私自身が目を瞑っているだけだったのだ。

これはマズイぞ・・・。

私の心に小さく火がついた。

以来、首の皺をとるためのクリームを買い、マッサージをし、保湿に気を使い、UVクリームも重ね塗り。

しばらくして、テレビで顔の筋肉を鍛錬する方法みたいなのが放送されていた。
目の下の筋肉までピクピク動かせるその先生。

「お顔の筋肉を鍛えると、小顔になってお首の皺も引き上がりますよお。
おーほっほっ!」(とは笑わなかったが・・・)。

おくびのしわ?!

この言葉に反応した私は、早速、先生おすすめの顔筋体操を実践、
お顔をコロコロする球体付きのローラーも買ってみた。


効果のほどがあるのかないのか、正直よく分からなくなった数週間後、
今度は頭皮マッサージの器具を通販している番組で、
色白の、若くはないがなんだかとっても透明感のあるモデルさんが
気持ち良さそうに頭をぐりぐりやっている場面に遭遇。

「頭皮もお顔と繋がっていますからね。
 当然、頭皮がたるめばお顔もたるみますよねぇ。」

そうだ、頭皮だ!

3日後、私は頭皮をぐりぐりしていた。

確かに頭皮が気持ち良い。
だけど、私はお首の皺をとりたかったのよ。
そこのところはどうなったんだろう。
う〜ん・・・、これって変化してるのかなぁ。

お首からお顔にいって、お顔から頭皮にいって、その上は・・・無いじゃないか!
もう引き上げられる部位がない。
悲しいかな、重力という強大な敵に打ち勝つすべが、もうなかった。


「そんなお歳には見えな〜い!」・・・見えなくてもそんなお歳なのだ。
人は見た目ではない、と呪文のように自分に言い聞かせても、諦めきれない、
そんな微妙なお歳なのだ。

抗う私は、今夜も深夜の通販番組で美容特集を見ている。
やたら首元がツヤツヤしているキャストさんが、飲むもの、塗るもの、電気でビリビリやるものを次から次へと紹介してくれる。

今度は購買意欲に火のついた私、欲という強大な敵に打ち勝つすべを身につけなければいけないのだ、とほほ。



拙い文をお読みいただきありがとうございます。

画像はにゃこぱん様よりお借りしました。ありがとうございます。

  
  




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