見出し画像

私はキリコになりたかったのよ・・・。ドラマ「恋におちて」を思い返す

鎌田敏夫さん脚本のドラマ
「金曜日の妻たちへ パート3 恋におちて」が好きだった。
不倫ブームを作ったと言われているが、私にとっては女4人の友情物語だ。

幼稚園からの同級生4人の女性。
小川知子さん演じるオコマは、コマネズミのように忙しく動き回る。
オコマの家に自転車を走らせてくるのは、のんびりマイペースのノロ。
森山良子さんが演じていた。
竹のようにスマートで長身の美人、優等生の元CA、篠ひろ子さんが演じるのはタケ。
そしてワケあり影アリのキーウーマン、いしだあゆみさん演じるキリコ。

私はキリコがとてもとても好きだった。
憧れだった。

第1話で昔の恋人に会う場面でのキリコ。
細い体を包む白い服、麦わら帽子にサングラス。
かっこいい〜!!
上品な上にできる女の匂いがぷんぷんする。

家で翻訳の仕事をしているキリコ。
着物をガウンのように羽織り、大きなセルのメガネ。
整えられた部屋の棚に置かれた陶器のコーヒーミル。

バリバリ仕事をするキリコのファッションからインテリア、
あまのじゃくで素直になれずうつむき加減に微笑む姿まで、
いしだあゆみさんの持つ華奢だけど芯のある美しさにマッチしていて本当にすごく素敵だった。


放送されていた当時は大学生で、いつも仲良しの4人でつるんでいた。
お昼ご飯を食べながら語り合うのはドラマの中の恋の行末と、
あの4人のように歳をとってもずっと友達でいたい、とういうような話。
そして4人の登場人物に自分たちを重ねて楽しんでいた。

友人A子は背が高くて美人、当然タケだ。

B美はちょっとおっとりしている。
「え〜・・・」と本人はあまり納得いかないようだったが、まあノロでしょ。

で、私は?
友人達は間髪入れずに指摘した。
「りすおちゃんは、オコマでしょ〜、だってくるくる動きまわるじゃない」。
・・・。
私はキリコがいいのよ、って言いたかったけど、話題はもうCサンがキリコにピッタリ、という内容に変わっていた。

Cサンは4人の中で一番成績が良く、大手企業への就職もいち早く内定した。
でも、どんなにつるんでもCサンという呼び名は変わらなかった。
どことなく他人を寄せ付けない雰囲気があり、深夜のスキーバスでも一人で本を読んでいるタイプだった。
そんなCサンだから、キリコにはふさわしい。なんだけど、私のキリコ愛はそれをすんなりとは許せなかった。


大学を卒業して、30年以上が過ぎる。
ある時、思いがけずCサンから連絡が来た。
病を抱え、仕事も辞めたという。
「今はまだ見えるけど、そのうち見えなくなっちゃうかも〜」。
電話越しの声は昔のままだ。そして「会いたい」と素直に言えない
あまのじゃくなところも昔のままだった。

会いにいかなくちゃ・・・!

とりあえず元気な私は、何年かぶりに学生時代を過ごした横浜に出かけて行った。

駅で待ち合わせた彼女は、学生時代より痩せて、
ひとまわり小さくなった印象だった。
田舎から出かけて行った私を目一杯おもてなししようと
ご主人と計画を立てていてくれた。
山下公園、港の見える丘公園、外国人墓地から夕陽に染まる富士山を眺め、
最後は山手のドルフィンに連れて行ってくれた。

「マンションができちゃったから、もう貨物船が通るのはよく見えないけどね」。



懐かしい場所で懐かしい話をしながら、「恋におちて」になぞらえた
あの頃を思い返していた。
私はキリコになりたかったけど、やっぱりキリコはCサンだわ。
こんなに情が深いのに、今でも私を「もりのサン」と名字にサンづけでよぶ。
細い体でうつむき加減に微笑む彼女に、
キリコはお譲りしようと素直に思いながら横浜を後にした。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?