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小説ですわよ第2部ですわよ

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2023年8月の記事一覧

小説ですわよ第2部ですわよ4-1

※↑の続きです。  大晦日は夕方まで寝た。昨日ベッドに身を投げてからの記憶がなく、気がつけば窓に差しこむ光が藍色がかっていた。妹がどこかから帰ってきたあと、また出かけていった。  歯を磨き、冷たい水道水で顔を洗う。だが瞼は重く、手足がだるい。疲れが残っているのだろう。しかし、ちゃんと働いたという心地良さがあった。  リビングに行き、母が淹れてくれた温かい茶と煎餅を友に、ダラダラとTVにかじりついた。夕飯はすでに母が『ウザーラ』のピザを注文していた。プルコギと明太子の2枚、

小説ですわよ第2部ですわよ4-2

※↑の続きです。 ※2023/08/17 加筆修正しました。 「あたしたちの狙いは田代まさしじゃない。真の特異点と、その運命に干渉できる者よ」 「な、なんですか、それ!? マサヨさんはいったい……」 「つまり、あ――」  マサヨの意地悪そうな笑みが消え、真顔になり、説明は中断された。見知らぬ男と女ふたりが近づいてきたのだ。 「まだこの街にいたのかよ」 「よくいられるね。新年から最悪な気分」 「図太いから平気で裏切れるんでしょ」  男女はマサヨを見つけるがいなや、口々に罵声を

小説ですわよ第2部ですわよ4-3

※↑の続きです。 「ここが鳥取砂丘だったらいいな……」  舞はひとりで呟いた。鳥取であれば数時間かけたら事務所へ戻れる。が、それは現実逃避に過ぎない。  少なくとも、ここは舞の知る世界ではないことは、文字通り肌で理解した。空気が乾き、日差しが刺すように熱く痛い。その光源となる太陽は、ふたつ連なっている。舞は海外に行ったことがないのでわからないが、中東や南アフリカは湿度が少なく、アジア圏の暑さとは別だと聞いたことがある。  とはいえ、冬用のコートは邪魔だ。どんどん汗があふれ、

小説ですわよ第2部ですわよ4-4

※↑の続きです。  モヒカン渡部が自分たちの集落に案内してくれるというので、バギーの助手席に乗りこむ。それを合図に、他の車両も一斉にエンジンを唸らせ、方向転換して走り出した。バギーは二人乗りで、骨組みの上に幌が張られた申し訳程度の屋根しかないが、刃物のように攻撃的な日光を遮ってくれるだけでありがたい。揺れもひどいものだが、見知らぬ地で誰かの助手席の乗れるという安堵が勝った。  モヒカン渡部はバギーを走らせながら運転席後方のラックをまさぐり、舞に水筒を手渡してくれた。舞は感謝

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※↑の続きです。  トカクニベルト。正式名称はトカちゃんクニちゃんベルト。腹に巻くベルト状の健康グッズで、発汗を促すことで腹部の引き締め効果があるらしい。日々のトレーニングにはいいだろうが、この砂漠で必要異常に汗を流すことは死に直結する。なにより元の世界へ帰ることも、神沼02の兵器群と戦うこともできそうにない。 (これが私の超常能力……)  トカクニベルトをそっと置いて、うなだれる。これまで出会った返送者は特徴的な能力を持っていた。それが返送者たちの個性にもなっていた。だが

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※↑の続きです。  舞は人形を拾い上げ、目をこらす。間違いない。草野仁をデフォルメさせた、ひとしくん人形である。『Hな聖地♪』の『H』は『ひとし』のことなのだろうか。 「渡辺さん、アヌス02って『世界ふしぎ発見』は放送されてます? ていうかテレビはあるんでしょうか」 「テレビはありますよぉ。神沼の支配下でしか見られませんがぁ。世界ふしぎ発見はぁ……聞いたことないですねぇ」 「これ、アヌス01の番組に出てくる人形なんですよ。どうしてここに……」 「やはりぃ、この禁地はぁ、他の

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※↑の続きです。  チンタマ上空にうごめく漆黒の門。舞たちはピンキーセプターのドアを開ける。 「チンタマに行きましょう」 「水原さぁん、しかしぃ……!」渡部がモヒカンをプルプル揺らす。 「おそらく神沼重工は、あの門からアヌス01へ転移しようとしています。それを阻止し、私たちだけで帰還します。時間はありません」  渡部の返答を待つ猶予もない。舞はピンキーセプターの運転席に乗り込んだ。渡辺は唸りながらも覚悟を決め、助手席に乗りこむ。と、ひとしくん人形が舞の腕から車外へ飛び下りる