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神田桂一/菊池良「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」

この本はタイトルの通り、様々な作家がカップ焼きそばの作り方を文章にしたらどうなるのか?に焦点を当てた作品です。当然、物マネであり、作家本人は書いていません。また、対象の作家が有名な場合もありますし、雑誌や求人記事というライターが匿名のものも取り上げられたりもしています。個人的には文章好きのエンタメとしてはアリだなと思いました。

ちなみに、本の中に挿絵もいくつか挟まれていますが、こちらも「XXがXXを書いたら」という特定の漫画家の作風を真似たものになっていますし、本の「はじめに」「おわりに」「解説」も全て誰かが書いてみたらという建付けになっており、内容は徹底しています。繰り返しますが、真似される側の作家は一文字も書いていません。

私が特に気に入ったのは三島由紀夫と、村上春樹と坂本龍一の対談です(共にばかばかしくて好き)。他にPOPEYEやVERYといった雑誌記事を真似たもの好きです。カップ焼きそばの作り方の説明といっても、取扱説明書のそのままその作家風の文章に起こすということにはこだわっていなくて、その作家の世界観とか価値観などもこれ見よがしに大げさに放り込んであるところが笑えます。

私が感心するのは、こういういわゆるモノマネというのは、その世界でそれなりに力がないとできないということです。例えば、歌マネがテレビで放映されることも多いですが、彼らは基本的に歌えるんです。すごい音痴だったりリズムが取れてないのに歌マネはできません。しかも、特徴を捉えるということは、真似をするアーティストの歌う技術や声質、その他の特徴などを捉える土地勘が必要です。

この本にもそういう関心させられる文章の土地勘というか、洞察力が詰まっていて、それをカップ焼きそばの作り方というフォーマットに乗せて展開する切れ味は素晴らしいと思いました。モノを書いたことが無かったりあまり読んだことがない人に「夏目漱石の文体ってどんな特徴がありますか?」と聞いたところで一言も発言できないと思いますが、この本の作者にはそれがわかっているということです。夏目漱石や芥川龍之介なら過去の作品から持ってくれば何とかなる、と思う向きもいると思いますが、この本は先に触れましたがPOPEYEやVERY、週刊文春やRockin'onまで真似してしまいます。匿名ライターの集合体である雑誌のトーンを言い当てるのはなかなか大変ですし、仕事として考えたことがなければまず雑誌の文章にトーンが存在することすら気づかないでしょう。この筆者はさすがプロだなと思った次第です。

この本は2017年発売ですが、なかなかに売れているようで私が手にした現物が4刷で、帯には10万部突破とあります。世の中には文章好きが多くいると思うと嬉しくなります。私もnoteを知らない時期があったわけですが、noteを知って、本を読むことが好き、作品を書くことが好きなど文字への情熱がこぼれ出てそうな人たちの記事を読んで励まされています。

存命の作家に限りますが本人のコメントなんかも今後の改訂版でつけてくれたら、さらに楽しい内容に仕上がるんじゃないかと期待しています。

関心のある方はぜひ手に取って自身でご確認ください。

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